題詠100首選歌集(その63)

          選歌集・その63


031:SF(178〜202)
(だったん)SFというイニシャルの人なんて二葉亭四迷しか思い浮かばない
(星桔梗)SFってどんな言葉の略だっけぼそり呟く君が愛しい
(清次郎)科学的瑕疵探しつつSFを君が読む夏スカビオサ咲く
051:番号(131〜156)
(bubbles-goto)IDを示す番号入力しパノプティコンの壁の手触り
(内田かおり) 矢印に沿えば仄かに風が行く番号となり行く診療科
(蓮野 唯)一言を言うためだけに指先に恋を灯して番号を押す
054:戯(127〜152)
(bubbles-goto) 誰からも少し離れて立っていた戯曲のト書きみたいな顔で
(ゆらり)いつまでも戯れ遊ぶ猫と子を呼びつけるため作る夕食
今泉洋子)熱燗にあたたまりゆく秋の夜は戯絵(ざれゑ)の兎にひとつ跳びする
(村上きわみ) 降るならば戯れ言めいた雪がいいひとりひとりをゆるく隔てて
068:怒(103〜129)
(珠弾)おさまりのつかぬ怒りにほころびた堪忍袋をつくろっている
(ゆらり) 怒りにも似た顔をしてランナーが川沿い駆けるゆれるコスモス
(ワンコ山田) 目立たない子だったねってポケットの喜怒哀楽をするするさする
今泉洋子) こんな世は以ての外と忿怒像笑はぬままに秋深みゆく
(村上きわみ) 冬水のかすかな怒り吸い上げて厚物菊は色濃ゆく咲く
069:島(106〜130)
(久哲) 無人島は売ってませんか椰子の木と海猫の有無は問いません
今泉洋子) 秋津島やまとの行方見つめゐる阿修羅の纏ふ千年の闇
(O.F.)立冬を控えて明日はロードショー日本列島じょうずに冷える
070:白衣(105〜131)
(湯山昌樹)ポケットの上が手あかで黒くなる 無精で楽しい白衣の先生
(星桔梗)欲望とわがまま隠して白衣着る今日の一日(ひとひ)を生き抜くために
(黒崎聡美) おさなごの瞳のような白衣着た実習生のあふれる四月
071:褪(103〜127)
(わだたかし)青春の青の部分は色褪せてキラキラ光る春だけ残る
(湯山昌樹)気に入った緑のポロシャツ色褪せて本格的に秋の到来
(黒崎聡美)プリクラに写るわたしは色褪せず二十歳の頃のきいろい手帳
(小林ちい) 色褪せた子どもの頃のアルバムに君が拾った落ち葉を挟む
(詩月めぐ)もう四年経ったんですね 色褪せた好きがちょっぴり懐かしい夜
072:コップ(102〜129)
(山田美弥)おそろいのコップはこの部屋に合わなくて帳尻合わせに君が出て行く
(湯山昌樹)あの夜に砕けたコップ いつまでも捜しています 星にするため
(黒崎聡美)着崩さず制服を着ているような漂白あとのコップが並ぶ
今泉洋子)コップ酒酌み交はす人みな笑みておくんち料理のあらを囲めり
073:弁(101〜127)
(珠弾)がらっぱの弁当売りに出くわした夏の肥薩の八代の駅
(nasi-no-hibi)剥がれてくようにできてるしあわせの花弁をそっと両手で包む
(湯山昌樹)弁当と言えば机にコンビニの袋が並ぶ悲しき景色
(黒崎聡美)なまぬるい風吹く午後は言いわけのように花弁はぐずぐずと散る
(小林ちい)「弁慶も泣くらしいよ」といたずらに引き寄せキスをする君の足
075:微(101〜125)
(壬生キヨム)昨日よりとおくへ行った恋人の細いくびすじ 微かに触れる
(村木美月)微熱あるわれに優しき無花果の蜜吸いてなお母ぞ恋しき
(内田かおり) 寒椿つぼみ微かな色見せてほろほろ冬の匂い始まる
(南野耕平) 昨日とは微妙に違う距離感を楽しめるほど大人になった
(ゆらり) 匿った写メのほほえみ、子の中の微弱な恋に巣立つおと聞く