題詠100首選歌集(その64)

              選歌集・その64


052:婆(130〜155)
(伊倉ほたる)婆抜きのババを押し付け合うふたり冷めたシチューの薄い皮膚感
(村上きわみ)どこかしら婆娑羅を好む痴れ者に奪われにゆく冬の妹
053:ぽかん(129〜154)
(月の魚)きみの声は僕のとこまで届かない ぽかんとくろい空に吸われて
今泉洋子)柚子の実をぽかんと風呂に浮かばせて邪気を払ふ冬至は近し
(O.F.) 鬼教官ひとりぼっちで昼ドラをぽかんと観てたそして泣いてた
(闇とBLUE) 落っこちたアイスキャンディーに蝶とまるバス停の影 青空ぽかん
(さくら♪) 気づいたら無音世界にひとりいてぽかんと浮かぶ月を見ていた
055 アメリカ(129〜154)
(ゆらり) ひきだしをあけたらそこは遊園地 雪うさぎ金太郎アメリカちゃん人形
今泉洋子)獄窓ゆ郷さんが見るアメリカの空とひとつらけふの蒼天
(内田かおり)  朝食はクロワッサンとアメリカン そを淋しひと思ふ秋の陽
056:枯(127〜152)
(ましを)せんせいと暮らす子猫へ木枯らしの名前を付けてもう過去にする
(内田かおり) 庭隅の僅かな茂み冬枯れて覗いた土に残る水跡
(清次郎)枯れもせず実りもせずに十月の胡瓜は幽かに黄色く燈る
057:台所(126〜150)
(ましを) 葬式は自宅でします台所すごく広いのつくったんです
(こなつ)ハレの日もケの日もありて台所 母の面影しまう抽斗(ひきだし)
(豆野ふく) 玉ねぎを無心で刻んで泣いていた 台所だけが隠れ家だった
(O.F.)コーヒーを立てる台所の棚に濡れて乾いた暮しの手帖
058:脳(128〜153)
(内田かおり)  バンダナを被る少女は明朝の自身の脳外科の手術を話す
今泉洋子) こころとは脳の何の辺寒牡丹ま白き揺れにわれも揺らぎつ
(村上きわみ)水音にノイズかさなる真夜中は脳内という異域へ降りる
(清次郎)花柄のお手玉ひだりに握り握り脳卒中より祖母が帰り来
060:漫画(126〜150)
(豆野ふく) 最後には意外な幸せ用意する4コマ漫画みたいなあなた
(村上きわみ) 雪の日は漫画みたいにじゃれあった感嘆符まみれの恋だった
(闇とBLUE) 何回も同じ漫画を読んでいる 今夜は花火の音が聞こえる
074:あとがき(103〜127)
(nasi-no-hibi)あとがきを食べて羊は旅に出るところどころで寄り道をして
(田中彼方) あいされたあとがきえないあさでしたきせつはずれのあきものをだす
(村木美月)最初からフィクションだった最後にはノンフィクションのあしがきしるす
(のわ)あとがきに筆者の気持ち溶け出して なお余りある読後感、秋
(内田かおり)読了の楽しみとしてあとがきの静かな甘さ時留めつつ
(こゆり) 早すぎたハッピーエンドのせいでまたあとがきのあとに記すお別れ
(振戸りく)長編の恋愛小説だとしたらあとがきあたりを書いてるところ
076:スーパー(102〜126)
(村木美月)スーパーでキットカットを探してる見つけられない夢はかなしい
(ひめじょおん)週一度君と行くあのスーパーが僕の癒しのオアシスとなる
(詩月めぐ)あの人に良く似た声が気になって目が離せない字幕スーパー
092:烈(77〜101)
(古屋賢一) 怒らなくなってる俺に気づくとき烈火のカレーライスを選ぶ
(南野耕平) 猛烈に自分を壊したいときに見上げる空はいつも満月
(高松紗都子)片恋のかたく結んだ唇に烈しい風が吹きつけて 冬