題詠100首選歌集(その65)

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して6年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


                選歌集・その65


008:南北(263〜287)
(帯一鐘信)雪の日は南北線に飛び乗って少しハワイへ近づいてみる
(小林ちい) 南北に伸びる国道 あなたとならどこへも行ける気がするふしぎ
029:利用(182〜206)
(帯一鐘信) 「ご利用は計画的に」の照明が「明るい家族計画」照らす
(小倉るい) 日に3本列車の停まる駅に降り利用者ノートに遠境綴る
030:秤(178〜203)
(羽根弥生) 旧校舎の理科室の窓開け放ち天秤皿に桜を呼びぬ
(小林ちい) 春までのあなたと夏のあなたとを乗せたら壊れてしまう天秤
ひぐらしひなつ) きみに逢えばかすかに沈む天秤のこの秋だけの傾斜をたどる
(ひいらぎ)諦めとでもまだ好きと天秤に掛けることすら戸惑っている
(田中ましろ)あいまいな答えが欲しい したたかに天秤を狂わせる抱擁
059:病(126〜152)
(bubbles-goto) 病院の長い廊下をどこまでも歩く夜更けの浜辺のように
今泉洋子) 健康が取り柄のわれもいつか病む鵲の啼く秋の夕暮れ
077:対(101〜125)
(薫智) 対となる僕の半身探してる一つになれる時を信じて
(nasi-no-hibi)真ん中で折り重ねてはぬくもりとあなたを知った対称の位置
078:指紋(103〜128)
(nasi-no-hibi)さざ波の指紋のついた浜辺には巻貝がほら握られている
(内田かおり)ふと触れたガラスの壁に吾が指紋歪んで残る人混みの中
今泉洋子)指紋にて占ふ過去世完全な死体となるには時間がかかる
(闇とBLUE) 指先で探して 背中に貼り付いた花びらみたいなあなたの指紋
(斉藤そよ)とけかけたチョコをはさんで指と指あわせてすっと盗んだ指紋
079:第(102〜129)
(小林ちい) 君の髪に降りては少しためらって次第にとけてゆく淡い雪
(南野耕平)この先はあなた次第という君の背中を照らす秋の三日月
(詩月めぐ)君にだけ働くわたしの第六感 嬉しいことより悲しいことで
(村上きわみ)大鍋に浮かんだ灰汁を引きながら店主が語る出奔の次第
089:泡(82〜109)
(高松紗都子) 産声がさざ波たてる海に来て泡立つものをかぞえて帰る
(五十嵐きよみ) 何のために中座したやら運ばれてきたカプチーノの泡しぼみゆく
(すいこ)滝落ちて水泡あらわれ消えてゆく白き紋様消すことはなく
(香-キョウ-)炭酸の泡はとっくに消え去って 甘さが余計 眠気を誘う
090:恐怖(83〜107)
(ふうせん)恐怖にもいろんなものがあることを知り肌寒い十月半ば
(小林ちい)幸せには終わる恐怖が寄生して抱きしめられて泣きそうになる
(南野耕平)打ち勝てぬ恐怖が一つ顔を出す夜はあなたの手を握りたい
(五十嵐きよみ) しんしんと恐怖や怒りが降り積もる「ゲルニカ」と題された絵画に
(村木美月)真夜中の鏡に恐怖映しだし人は心で魔物生むらし
091:旅(81〜105)
(虫武一俊) 仕方なく出た旅だから仕方なく何度も肩にかばんをなおす
(ふうせん)心なる旅路にいつもきみがいて十九のままの秋風が吹く
(内田かおり) 足元の心許無き旅なれど吹く風ごとに歩み強くす
(高松紗都子)手の甲をなでる小さな風ひとつ旅はしずかにおわりを告げる
(五十嵐きよみ)君はまた旅に出ている1ページずつ気に入りの本を繰りつつ
(黒崎聡美) 葉ざくらにそそのかされて遠くまで誰にも告げず旅へ行きたい