題詠100首選歌集(その67)

最終題も、やっと100首に届いた。これで百人一首作成のための最低限の前提に届いたわけでもある。泣いても笑ってもあと10日弱、ラストスパートの皆様の健脚ぶりに期待したい。


選歌集・その67


005:乗(284〜308)
(闇とBLUE) 満月に飛び乗れそうに口笛が響く夜ならブランコ漕ごう
(小倉るい) 山へ行くザックがひとつ転がってあなたを乗せない助手席蒼い
010:かけら(256〜280)
(おっ)面影のかけら集めた筒のなか月の明かりに咲く万華鏡
(薫智)砕け散る恋のかけらをかき集め海に流してたたずんでいる
(原 梓)「こんなとき優しい言葉をかけられる人」にはまだなれずに歳をとる
(内田かおり)両手上げて秋の陽を受く散らばった光のかけらを集めるように
(弥慧)想い出のかけらを幾つ集めても完成しないジグソーパズル
(日向奈央) 粉々に砕いたせいで私からあなたのかけらを取り除けない
(小倉るい)秋の朝イーハトーヴォの駅前に風のかけらを落としに行こう
083:孤独(101〜125)
(村木美月)夕闇にとけ込んでいく地平線いつか孤独をあそこに棄てる
(黒崎聡美)ぬるい朝孤独はふいに訪れて鏡にむかい髪を梳かした
今泉洋子)たましひの奥へ孤独をねじこみぬ猿丸大夫になれさうな秋
(伊倉ほたる)ジオラマに孤独は閉じ込められていてスノーボールに降り積もる雪
084: 千(102〜126)
(内田かおり) 深き処に千の窓持つ心ありてひとつ開ければ小さく風行く
今泉洋子)観音の千手乱れて秋深し紅葉吹雪を浴びながらゆく
(伊倉ほたる) 薄荷糖を口にするとき懐かしく千日紅の夏がほどける
085:訛(102〜126)
(高松紗都子) ぬけきらぬ訛のようによりそってひと雨ごとの春をむかえる
(内田かおり)  おんな等の里の訛の柔らかくここは誰かの故郷のまま
(黒崎聡美) 濁音のような小雨は降りやまず離れて暮らすいもうとの訛
(だったん)ふるさとに電話をすればちちははのゆったりとした訛りが返る
今泉洋子)大阪の友と話せば関西の訛うつりて電話は終はる
(伊倉ほたる) 訛りをかくす人ばかりいる東京でエナメルの靴は窮屈すぎて
086:水たまり(101〜125)
(氷吹郎女)通学路 コンクリートの水たまり ちいさな罪の靴底の跡
(村木美月)目の前の小石をよけてその先の水たまり踏むそんな一日
(だったん) 水たまりに落ちたみたいな恋をして膝まで濡れて乾かない夜
(清次郎)月ひかり溶いてかがやく水たまり呑まれぬように道の端をゆく
097:換(76〜100)
(音波)あなたとの青春なんて誰にでも置き換えられるぐらいの、時間。
(sh) 冬が来る。なくしたものと引き換えに手に入れたものをなくしてしまう
(高松紗都子) 退屈を君にあずけて引き換えた切符の行先はまだわからない
098:腕(77〜101)
(小林ちい) 不確かな未来をいとおしみながらあなたの腕で今夜は眠る
(内田かおり)腕白な日焼けの顔と虫かごを置いて少年の夏が終わりぬ
(音波)腕なんてものがあるから抱き合っていない夜更けを寒く感じる
(高松紗都子)利き腕のちがうあなたと手をつなぐ大事なものを持ちよるように
099:イコール(76〜100)
(小林ちい) 眠いよと君がもたれて笑うことニアリーイコール僕の幸せ
(穂ノ木芽央)イコールで結ばるること夢みても不等号ばかりあふるるノート
(高松紗都子)イコールで結ばれているふたりなら誤差もやさしいスパイスになる
(富田林薫)青空とそれはイコールだった頃の麦わら帽子が発見される
(わだたかし) 来年の主役 イコール 自分だと言い聞かせれば明日も晴れる
100:福(76〜100)
(青野ことり)絵に描いたような幸福 とりどりのマカロン笑い声のある居間
(穂ノ木芽央)炬燵「強」で雪見大福ひとり食む返信はまだしないと決めて
(音波) 一年に一度だけある幸福の、ただしい場所に打つ句読点。
(すいこ) 誰かから逃げ出してきた幸福をひとつひろってうちへ帰ろう
(庭鳥)逆さまの福の字飾る中華屋で麺すする音消した昼メロ