題詠100首選歌集(その68)

選歌集・その68


002:暇(305〜329)
こばと) 暇だから誰にも知られず星空で君と一緒に浮かんでいたい
(だったん) 暇という言葉は私の辞書にないあるのは休憩・昼寝・うたたね
(小林ちい)暇ですか 桜がきれいだそうですよ誘ってくれてもいい午後ですよ
(小倉るい) 休暇には理由(わけ)はいらないただ君と鞍掛山を登っていたい
041:鉛(155〜179)
(藤野唯) 書きかけのメールは捨てた 8階のビルから見る鉛色の東京
(一夜) 鉛筆で綴られている日記帳 幼き恋がたまゆらかほる
042:学者(152〜176)
(イノユキエ) サバンナで遠くを見やる獣らはみな哲学者めいた貌して
(闇とBLUE)哲学者の顔してラジオ中継に聴きいるゴールデンレトリバー
ひぐらしひなつ)焼べられて役目を終える新聞は仏文学者の訃を告げたまま
(小倉るい)「なぜ?何?」の小さき幼い哲学者にお金で買えないものを教える
043:剥(154〜178)
(小林ちい)剥製と目が合ったから君の手を握り損ねる小さな駅で
(志岐)手に取った梨の実一つ剥く前に 母に告げるは丸き(まろき)よもやま
ひぐらしひなつ) 日々空はうすく剥がれて忘却の遠き痛みに四肢を投げ出す
(小倉るい) つやつやの肌が大好き秋晴れにりんごの袋ていねいに剥ぐ
044: ペット(152〜176)
(内田かおり)  座り込んで飲み干すペットボトルには昨日の悔しさ今日の儚さ
(小林ちい) あなたにも見せてあげたい夏の夕日ペットボトルに詰めて帰ろう
ひぐらしひなつ) ペットボトル逆さに振ってこの夏も告げずじまいの言葉を刻む
(田中ましろ)かみの毛も汗も会話も体液も忘れるために干すカーペット
045:群(152〜176)
(小林ちい) 君の絵を描くならまずは群青の絵の具をパレットの真ん中に
(やすまる) 颯爽と母は高空に立ちしばしアキアカネの群れ渡らせている
ひぐらしひなつ)駅からを連れ添う月が群れたがるけものの熱をほどいてくれる
(南雲流水) 群青の瞳に映る青空が曇り始めてふと好きになる
063:仏(127〜152)
(ワンコ山田) 野仏の雨ざらしゆえやわらかくすり減ることと違う日常
今泉洋子) 青丹よし奈良のみ仏切れ長の目元涼やか秋波を送る
(伊倉ほたる) オリーブとアンチョビ刻む昼下がり南仏風のサラダを作る
ひぐらしひなつ) 起き抜けの仏頂面が横を向く朝 もう何かなくしてもいい
(こなつ)神仏を顧みることなき我の 休日過ごす仏像めぐり
064:ふたご(128〜152)
今泉洋子) 淡々と未来語りし君の目にふたご座きらり光りてゐたり
(村上きわみ) 驟雨得て鎮まる午後のふたごもり夏の記憶にしるくとどめて
(伊倉ほたる) 前世ではふたごの片割れそれぞれの糖度で熟す夜の無花果
(豆野ふく)サクランボはふたご わたしは一人きり 火曜の2時のフルーツパーラー
(南雲流水) ケータイでふたご座との縁占えばまだ堅すぎる青ラフランス
065:骨(128〜153)
今泉洋子) 胎内に戻りし君か骨壺の母恋ふ歌に桜吹雪けり
(さくら♪) 胸骨がつながるほどの抱擁を終の記憶にしたいと願う
(豆野ふく)寄りかかった背骨に君も女の子なんだと気付く 終電が行く
(藤野唯) くらやみにまどろみきれず触れているあなたの手首の骨がいとしい
067:匿名(126〜150)
(ワンコ山田) いくつもの仮名で生きて最後にはさよならさえも匿名のまま
今泉洋子)木犀の匂ひ初めたり匿名の投稿終へし夜のほどろに
(蓮野 唯) 拒否される恐怖のために恋心自分に対して匿名にする
(さくら♪) 記念日に届いたピンクの花束(ブーケ)には「柄じゃないので、匿名希望」
(豆野ふく)匿名で始めてしまった恋だから11月の雨は冷たい