題詠100首選歌集(その69)

            選歌集・その69

006:サイン(278〜302)
(内田かおり)その刹那小さく震えるもののありサインであると思えば愛(かな)し
(久野はすみ)カウンターに飾られていた親分のサインボールの真偽は知れず
(小林ちい) ひだまりのあなたへ走り出しながら探しはじめる秘密のサイン
032:苦(183〜208)
(一夜)諍いの苦味鎮めるコーヒーは 砂糖にミルクただただ甘く
(村上きわみ)残秋のひとつところに鎮めがたき思い凝りて苦艾酒(アブサン)を干す
(みぎわ) 苦しみの血の息を吐き詠ふなり乳房を病みし歌びとふたり
(小倉るい)年老いて水子地蔵に米供ふ母の苦悩に寄り添うばかり
046:じゃんけん(154〜179)
(さくら♪) じゃんけんを覚えた頃のちっちゃな手守られていた愛されていた
ひぐらしひなつ) あの庭の遠き薄暮のじゃんけんを花の赤さにぼんやり見てた
(南雲流水) 一呼吸いつも遅れて好きになる後出しじゃんけん出せずに帰る
(ミナカミモト) じゃんけんで出し合うパーの掌をそのまま繋いで帰る夕暮れ
(zoe) 出身は北海道とはにかんでじゃんけんホイと遠き目をする
047:蒸(152〜176)
(村上きわみ)ふゆやさい蒸しております。泣くほどのことではないと思っています。
(闇とBLUE) 蒸し暑い日にエクレアを頬張ればすれちがう人笑う原宿
ひぐらしひなつ)八月の陽射しに蒸せる叢を分けてちいさな墓碑が佇む
(片秀)思い出も遺伝するのか懐かしい知らないはずの蒸気機関車
048:来世(153〜177)
(村上きわみ)前世は葡萄、来世は鶺鴒をのぞむ少女と月をみている
(闇とBLUE)地下鉄で隣の少女が開いてる詩集の中の来世の二文字
(ほきいぬ) 来世などないと知ってる君だから僕は焦ってミルクをこぼす
075:微(126〜151)
(伊倉ほたる) ふわふわのルームブーツを履く夜はカマンベールのように微睡む
(南雲流水)ipodの微かな音がこぼれ出てビニール傘をたたく秋雨
(こなつ)口もとが微かに上がる優しげな キミの笑顔とともにある日々
(蓮野 唯)いつまでも一緒に笑顔でいるために微妙なままの関係でいる
087:麗(101〜129)
野州)一てふの豆腐を分ければ麗しき友情もあるよひの居酒屋
(夢雪)麗人と呼ばれて見たしけだるげな午後の紅茶を飲みほしながら
(黒崎聡美)さくら咲く もう会うこともないだろう綺麗な文字を書く人だった
(さくら♪) 仕事では女封印してるから花の下では綺麗でいたい
088:マニキュア(102〜126)
(湯山昌樹)「夏休み終わるまでにはやめるよ」とちらりマニキュア我に見せる子
(氷吹郎女)危なげなにおいの残る更衣室 彼女はわざとマニキュアこぼす
(高松紗都子)マニキュアを乾かすまでのつかのまの伏し目のときに消える残像
野州)石灰が少し足りないやうな朝、いらだちながらマニキュアを塗る
(村木美月) すり減った好きの気持ちを探す夜マニキュア零す床の冷たさ
(黒崎聡美)どこまでも湖底のような花冷えに息をひそめてマニキュアを塗る
(だったん) マニキュアをできない仕事をしてるから旅行にいこう付け爪をして
(詩月めぐ) 優しさが重たく胸にのしかかる 夕焼け色のマニキュアを塗る
(伊倉ほたる) 薄い爪はゆっくり伸びてマニキュアを塗った時間を押し出してゆく
090:恐怖(108〜133)
(山田美弥)眠れない夜の映画が終わりゆく恐怖は遠い昔の記憶
(さくら♪)もう二度と会えなくなるという恐怖戸棚に隠し今日も微笑む
(こなつ) 何よりもあなたが居なくなる恐怖 かき消すように強く手にぎる
091:旅(106〜131)
(清次郎)そうですか自分探しの旅ですか 出発前に土産ください