題詠100首選歌集(その70)

 考えてみれば(考えてみなくても)ゴールまであと3日。ラストスパートの皆様のご健走をお祈りするのみです。

         選歌集・その70


034:孫(179〜204)
(一夜) 友からの絵手紙の端踊る文字 『来年の春孫が出来ます』
(村上きわみ)かなしみは尊いちから つれだって公孫樹の下をゆらゆらあるく
(秋篠)孫を抱く 写真の中の 若き祖母 赤子の私も じき母になる
049:袋(155〜179)
(イノユキエ)目の前をナイロン袋が滑りゆく見て見ぬふりを今日いくつした
(海音莉羽) 今日君が吐(つ)くことになる溜息をビニール袋に入れて棄てよう
(わたつみいさな)財布には昨日の嘘と惚れ薬、紙袋には夢のつづきを
野比益多) 袋から大切そうに取り出した君の過去には触れないでおく
(瀬波麻人)コンビニの袋ばかりを溜め込んでひとりの部屋に埋(うず)もれていく
050:虹(154〜180)
(さくら♪)青空がただひたすらに青いから歩いてみるか虹が出るまで
(イノユキエ) 壁と壁くっつけ合ってそれぞれの箱庭に住む虹を待ちつつ
(小倉るい)この山のりんごに薬かけるとき北上川に夕虹の立つ
野比益多) 夢の中一緒に虹を見たと言う君をそうっと夢に戻した
(ミナカミモト)しんと清む虹彩の奥にオーロラを見る冬の街、終電の駅
066:雛(130〜157)
(清次郎)雛祭りにまつわる君のえとせとらケルト民話のように聞いてた
(みぎわ)和箪笥の上に雛(ひひな)の棺あり5000年過ぎしやうな暗がり
068:怒(130〜155)
(さくら♪) 泣くよりは怒っていろよと背を向けた赤くなってく耳たぶ見てた
ひぐらしひなつ) さっきからしずかに怒っているひとも花瓶の百合も包む薄暮
野比益多) 怒鳴りあうこともできずに上澄みをそっと掬って君は行くのか
(わたつみいさな) 怒られたあとの景色は原色で記憶のいつも最初のページ
077:対(126〜150)
(詩月めぐ) 今までもこれから先も絶対に会えない君を恋う曼珠沙華
089:泡(110〜136)
野州)泡立てるむかしの河のほの匂う君を送って行ったゆうぐれ
(闇とBLUE)純白に石鹸泡だていとおしむ世界と私を隔てる皮膜
(みぎわ)バス・ジェルをざんぶざんぶと泡立てん晒し首ふたつ向き合ひながら
(さくら♪)はにかんだ空の流れが止まる瞬間(とき)たそがれ色の泡となる恋
(ワンコ山田)いつの日か水に浮かんだ泡になるわが身に空や雲を映して
(イノユキエ) 氷には水の記憶がどれくらいあるのか気泡を閉じ込めながら
092:烈(102〜129)
(五十嵐きよみ)痛烈なことばの意味を骨抜きにするゆるゆるとした節回し
(こゆり) 鮮烈な中吊り広告ルミネでは買えない季節を君がください
093:全部(104〜130)
今泉洋子)嫌なこと全部忘れて良きことを膨らませつつけふを閉ぢゆく
094:底(103〜127)
(庭鳥)背伸びしてふわふわ揺れる厚底のサンダル履いて歩いてた夏
(村木美月)胸底に沈めてしまった真実がじわりじわりと締めつけてくる
(伊倉ほたる)逆三角のグラスの底を舐めながら湿った夜の皮膜を被る