題詠100首選歌集(その71)

選歌集・その71


069:島(131〜155)
(さくら♪) ゆるやかに満ちゆく月を待ちこがれひとり訪ねし風わたる島
(こなつ) 草原のひなたのような糸を編む まだ見ぬアラン諸島の模様
070:白衣(132〜156)
(蓮野 唯)気が弱くなると白衣はときめきの対象となる恋の幻想
(藤野唯) 何回か分の薬と涙とが染みた白衣で来る喫煙所
(キキ) 理科室の白衣にふれてすこしだけおとなになった気がした7時
(小倉るい)二年間着ていた白衣卒業の朝に二人で写真に残す
(纏亭写楽) 近ごろの白衣はあわく染められて天使もおしゃれに目覚める季節
071:褪(128〜154)
(O.F.) アセロラのピンクレッドの半透明しずくが褪せた写真に落ちる
(伊倉ほたる) 向日葵も夏の終わりは色褪せて絵日記の主役には戻れない
(みぎわ) 枯るる身の褪せゆく肌よくちびるの輪郭深く浅緋(うすきひ)を置く
(南雲流水)秋の影色褪せてゆき過去の日に待たせたままの人がまだいる
(小倉るい)町役場の屋根の日の丸赤褪せてライスセンター竣工ま近
(ミナカミモト) なにものであるかを失くし少女期は褪せた詩集へ織り込まれゆく
(纏亭写楽)あの夏の空の青さも色褪せて季節外れの黄砂がつもる
073:弁(128〜154)
今泉洋子) 弁当を子にこしらふる日々終り母のわたしが淡くなりゆく
(伊倉ほたる) 立ち位置は弁えながら生きてきたアボカドに開く穴を見つめる
(さくら♪) 戯れにひとりで歌う星月夜桜の花弁鮮やかに散る
(わたつみいさな) 弁解のレパートリーだけ増えてゆく大人になるって背筋がさむい
074:あとがき(128〜153)
(ワンコ山田) そろそろとあとがきを書くペンを持つひとりで過ごす誕生日には
(蓮野 唯) 短めにしておきましょうあとがきはセピア色した初恋話
(山田美弥)妄想の歌集につけるあとがきをまた妄想して夜は更けゆく
(みぎわ)終はり方が曖昧だから丁寧にあとがきのやうな恋を仕掛ける
(小倉るい)人生にあとがきはない日曜は義父の病院へ車を向ける
(田中ましろ) 簡単なあとがきだけで締めくくり初恋は行方不明になった
076:スーパー(127〜152)
今泉洋子)しづかなる闇を愛した思春期に流れてゐたり「スーパースター」
(伊倉ほたる)夜が深くなるほど無口なスーパーで人待ち顔の花束を買う
(山田美弥) 我だけのスーパーマンは我だけを傷つけたまま飛び去って行く
(小倉るい)恋をしているのだろうかスーパーで豆腐2丁と日本酒を買う
095:黒(102〜127)
(村木美月)白黒はつけずにおいた方がいいグレーゾーンにいるふたりなら
(清次郎) ああ黒は聳える終着点として 光に重さがあるかのように
(五十嵐きよみ)白黒をつけないままに済ますのが大人の知恵と耳打ちされる
(村上きわみ)記憶とは漆黒の土みずみずとふくらむ種子を深くとどめて
(詩月めぐ) 黒葡萄あなたが好きと言ったからわたしも好きとつぶやいてみる
(ワンコ山田)黒ばかり選んだ長いスカートのくるぶしあたりから透けてゆく
(湯山昌樹)カラオケで「黒の舟歌」唄いつつどこか楽しげなる人のあり
096:交差(102〜126)
(氷吹郎女)スクランブル交差点では真夜中に生まれたキスが轢かれています
(山田美弥) コーヒーの香りとたばこの煙とを交差させてる 君想うため
(こゆり)年の瀬のにおいがしてる交差点じゃらじゃら小銭ばかりが増えて
097:換(101〜127)
(村木美月)君の名をうまく変換できなくて間違っている恋だと気付く
(氷吹郎女)あのときに喧嘩しなけりゃよかったと後悔しつつ換える豆球
(五十嵐きよみ)最後には辻褄が合う物語「嫌い」が「好き」に置き換えられて
(小倉るい) 幻を追い払いたい秋の日はカーテン全部グレーに換える
098:腕(102〜127)
(五十嵐きよみ) おだやかな小春日和の後日談 あなたの腕を枕に眠る
(小倉るい) 老医師は細き腕にも容赦なく黄色の液を流していけり