題詠100首選歌集(その73・74・75・76)

 いよいよ最終日。今日の欄には、おそらくあと2回か3回選歌集を追加することになるのだと思うし、また、そう期待したい。(11:27)→その後「その74・75・76」追加済み


               選歌集・その73 


016:館(235〜261)
(内田かおり)平日の美術館には静謐という音のしてひとり聴き入る
(吾妻誠一)のんびりと三月(みつき)遅れで丁度良い 私の町の映画の館(やかた)
(久野はすみ)混沌をきっぱり捨てて函館の絵葉書だけをふたたびしまう
(小林ちい) 雨の日の図書館がよく似合う人 寝グセ・黒ぶち・少し出たシャツ
ひぐらしひなつ) 図書館の階段に影かたむけて塑像の少女手を振るばかり
(ひいらぎ)少しでも貴方のことを知りたくて図書館へ行く土曜日の午後
(みくにえり)サボり癖抜けぬ少女に図書館のガラスは今日もよく透けており
(宵月冴音)夕立が上がりかまちを塗りつぶしもくせい館の夜がはじまる
(纏亭写楽) 閉館の後にたたずむトルソーにひとすじの青、月が囁く
(青山みのり)百合ばかり集めた美術館の戸にふれれば指を染めるさみどり
035:金(180〜204)
(南雲流水)金運は端(はな)から無しと諦めてシャボン玉をいちいち潰す
(宵月冴音)金木犀あまき匂いに満たされて狂気のごとき恋よみがえる
(春村 蓬)何回もつくため息に混ざり合ひ「金輪際」とふ言葉が落ちる
(ひいらぎ) 金色の夕焼け空を見ていたら二人の距離が少し縮んだ
054:戯(153〜177)
(蓮野 唯)戯言を睦言にして腕枕夜を紡いで朝を紡いで
(越冬こあら) 戯れ言を並べて逃れ辿り着く懺悔の街に似合うブルース
(南雲流水)戯れに二人乗りした自転車が甘い重みに危うく揺れた
ひぐらしひなつ) 背表紙の縁取りだけが褪せ残り戯曲集廃棄される十月
(ミナカミモト)自らが其処には居ない戦場は戯曲のようだと語る街角
(竹中 えん)  おとなりの子に戯れてひらがなで書いた手紙のようなおはよう
057:台所(151〜176)
(わたつみいさな)【台所】こっそり泣く場所、発泡酒こっそり飲む場所、シェルターと読む
(一夜)あちこちが壊れ朽ちゆく台所 四半世紀の命紡いで
野比益多) おしょうゆの匂い染み着く台所しあわせの場所だったのだろう
(纏亭写楽) 旬だから筍ご飯にしてみたよ台所から春がはじまる
081:シェフ(128〜154)
(ワンコ山田)きまぐれなシェフが多くてサラダさえ決まらぬままの最後の宴
(田中ましろ)はらわたを掻きだすシェフの指先を見る さよならは優しさじゃない
083:孤独(126〜152)
(みぎわ) 「百年の孤独」を痛飲するらしいあの結婚は失敗だつた
(こなつ) ひとりなら受け止められる孤独でも ふたりじゃ薄められない時間
(イノユキエ) 孤独臭立ちこめているファミレスの午前一時のフライドポテト
(小倉るい)伸びきったアサガオの蔓の先端の孤独を君は知らないだろう
(一夜) 孤独なら知ってるけれど忘れてた ざわめく我が家七人家族
(田中ましろ)「人生に苦みをプラス!」コンビニに並んだ孤独をひとつ手に取る
(纏亭写楽) 夏の日にひっそりたたずむ向日葵の根元に孤独の影がしみこむ
084:千(127〜152)
(キキ) 川底の千の小石を選り分ける 思い出はみな砂金に見えて
(田中ましろ) (本当はマンションじゃなくアパートで広尾じゃなくて北千住です)
(わたつみいさな) 100均のコルクボードにくずぐすと千切った夢を貼りつけている
(蓮野 唯)一枚のハガキに込める幾千の想い隠して「お元気ですか?」
085:訛(127〜155)
(bubbles-goto)雪国で育った人の靴音のかすかな訛りのぼる階(きざはし)
(南雲流水) ipod外してみればギャル訛りミニスカートの集団抜ける
(イノユキエ) 大阪と京都の距離でもう違う鳩が鳴き声訛りつつ去る
(キキ) 耳たぶの産毛をなでるあのひとのふうわりとしたたんぽぽ訛り
野比益多) もう訛ることすらできずこの土地の光の中に私はいない
(豆野ふく) 引っ越しを重ねた母が何処訛りか判らぬ響きで語る初恋
086:水たまり(126〜152)
(ワンコ山田) 水たまり飛ぶ勇気なく避ける日は最後の恋も回避している
(イノユキエ)異世界へ落ちそうな夜の水たまり踏めば頭上で月がくずれる
088:マニキュア(127〜152)
(南雲流水) マニキュアを乾かしている君がいて爪使えない猫の表情
(こなつ)君に会い手つなぎ歩く日曜日 ほのかに淡きマニキュア選ぶ
(イノユキエ)苛立ちも惰性になって剥げだしたマニキュアにマニキュアを重ねる
(纏亭写楽) マニキュアはギターをつま弾く右の手にボサのコードは馴染みがうすい


さすがに最終日ともなると、ペースが速い。はやばやと、本日第2便を追加する。(13:09)

             選歌集・その74

023:魂(207〜233)
(小林ちい)君となら観たい気がする「魂がふるえる恋」とうたう映画を
(宵月冴音) 夜色の花摘みにけり 螢草 魂とけてゆく夏祭り
025:環(204〜229)
ひぐらしひなつ) 環状線二周目となりなめらかに朽ちる夢へとつづくこの午後
(春村 蓬)目覚めると琴座の環状星雲の温度を思ふ冬のはじまり
(青山みのり)名も知らぬ猫を残して乗り込んだ循環バスに午後をあずけて
(我妻俊樹)晩秋の花環をはこぶトラックに赤信号がけらけらと照る
036:正義(180〜204)
ひぐらしひなつ) 成れの果てはいつも空しい 教室に正義めかして吐いた言葉の
(r!eco)正義感だけを味方にひきいれて君に触れずに過ごそうとした
037:奥(177〜201)
(南雲流水) 目の奥を覗かれぬよう目を閉じる傷つけぬよう傷つかぬよう
(久野はすみ) 束縛の快楽を知りてひそやかに奥付に押す朱き印鑑
(水沢遊美) 涙する妻への言葉は持たずしてポケットの奥まさぐっており
038:空耳(179〜206)
(小倉るい) 空耳に「イーハトヴォ」と聞こえきて振り向いている四谷キャンバス
(ひいらぎ)空耳でいいから声が聞きたくて耳を澄ませた満月の夜
051:番号(157〜182)
(ミナカミモト) 電話番号を憶えることもなくなってメモリカードに絆を託す
(はせがわゆづ)つながらない携帯番号をいつまでも終わらない夜に閉じこめている
(竹中 えん)  メモリーに残したきみの番号を消去するとき冬がはじまる
(水沢遊美)見覚えのある番号が表示され別れを告げに行こうと思う
(春村 蓬) あの頃はわたしの証であつたのに思ひ出せない出席番号
(r!eco)背番号【1】をかかげて走りだす夏をぼくらのものにするため
052:婆(156〜181)
(海音莉羽) 暖房の効かぬキッチン母さんは湯湯婆に入れる湯を沸かしをり
ひぐらしひなつ)長雨に卒塔婆は繊く傾いて十月は遠く人を恋う月
(纏亭写楽)お婆ちゃんの布団の匂い懐かしく昔語りの世界は広がる
(勺 禰子) 君が語る「寒戸の婆」を聴きながら眠る日もあらむと思ふ風の夜
(水沢遊美)ハフハフと麻婆豆腐を食むきみの口もとばかりに目が向きおりぬ.
(青山みのり)婆シャツが風にゆれてる 根無し草みたいな母に明日会いにゆく
053:ぽかん(155〜180)
ひぐらしひなつ) 一輪だけぽかんと咲いて何もない陽射しを窓に転がしている
(一夜) 気がつけば老いの階段降りていた ぽかんぽかんと靴など飛ばし
(田中ましろ)無邪気さはあなたの強さ 部屋中にぽかんぽかんと好きを浮かべる
(瀬波麻人)車内にてクレーム対応報告をまとめてぽかんと抜ける青空
(青山みのり)話せないことで壊れてゆくのならぽかんと晴れた深秋の空
055:アメリカ(155〜183)
(南雲流水)好きなのは少しぬるめのアメリカン影の薄さに相似している
ひぐらしひなつ)キャスターのほほえみ遥か滑稽の象徴として戦ぐアメリ
(久野はすみ) いつもいつも同じシーンに涙する「アメリカの夜」きみと見し日も
056:枯(153〜181)
(イノユキエ)  母はいまだ松食い虫に枯らされた五十年前を語りに語る
ひぐらしひなつ) 鉢植えを枯らしてしまう癖のあるあなたの影を踏みつつ歩く
(一夜) 若き日は肩に子供等ぶら下げた枯れし夫の肩に寄り添う
(瀬波麻人)枯れているように見えたんでしょうけど夜には涙と血を流してる
(水沢遊美)野辺のはな風にゆられることもなく我が手のなかで枯れてしまえり



今日の第3便。おそらく今日はこれで終わりになるのだろうと思う。(18:27)→結局もう1便追加した。

選歌集・その75


059:病(153〜178)
(小倉るい)病葉(わくらば)を手折りて見上げる空の底何も涙を隠してくれぬ
(纏亭写楽)臆病なブロイラーにはならないとフライドチキン食べつつ思う
(はせがわゆづ)たしかめることさえできずにふるえてた臆病だった春先の雨
(水沢遊美)淋しさを分かち合ってた記憶さえ今では遠く病衣で眠る
060:漫画(151〜180)
(南雲流水) 四コマの漫画読み終え目の上の蛍光灯の紐引いて寝る
ひぐらしひなつ) それはもう漫画のような死にかたでやたらグラスがまぶしい夜で
(ほきいぬ)漫画ならそろそろ次の展開になる頃だから君を見つめる
(瀬波麻人)積み上げた漫画の塔のぐらつきにレモンをのせて昼飯に出る
(はせがわゆづ) 終電後漫画喫茶でうずくまる仄明るい夜外はまだ冬
(春村 蓬)今われは四コマ漫画で言ふならば三コマあたりの微妙な場面
061:奴(152〜180)
(わたつみいさな)いい奴で終わっていいし昨日から靴のかかとは踏んでいないし
(イズサイコ)白衣ってエロいよねっていう奴のためにあたしは今日も働く
(竹中 えん) どんな奴だったときいたいもうとの頭を小突く 恋はまほろ
(はせがわゆづ)ふたりぶん用意されてた奴豆腐とずっと頬杖をついてたあなた
(青山みのり)はつ恋はいつだったっけ 冷奴用の豆腐がぷるんとゆれる
062:ネクタイ(151〜178)
(ミナカミモト) 漆黒のネクタイのまま眠るひと、浅き夢では誰と出逢うか
(田中ましろ)今朝もまた君の選んだネクタイで首を絞めつつ玄関をでる
(竹中 えん)  ウロボロスのごとくに家族を守りたる父帰りきてネクタイをとく
(はせがわゆづ) もうどこにもいかないようにネクタイを緩める指に舌を這わせる
063:仏(153〜177)
(わたつみいさな) 思い出に押しつぶされる庭先に仏頂面で咲く沈丁花
野比益多)仏壇も神棚もない家だった白い四角い箱で育った
(竹中 えん)仏壇を磨けば祖父がいるようで掌(て)はゆっくりと微笑みを呼ぶ
064:ふたご(153〜177)
(勺 禰子) 壜のふたごろりとさせて夜も更けぬ 己に厳しくない夜ばかり
(青山みのり)胸壺にあふれそうなる秘め事をふたごと捨てる火曜日の朝
065:骨(154〜178)
(小倉るい)すきま風入り来る二階の広間では骨あげを待つ老人無口
(一夜)懲りもせず『痩せる』の文字に飛びついて今朝も骨盤クネクネ回す
(越冬こあら)骨付きが良いねと君が言ったから今日は私のカルビ記念日
(久野はすみ) 骨密度低くなりゆくゆうぐれのあなたとしずかに浜歩む夢
067:匿名(151〜176)
(一夜) 君だけに想い知らせるリクエスト 名前に添えた匿名希望
(わたつみいさな)うやむやに済ませてしまいたい時もあり離婚届は匿名にする
(田中ましろ)封筒は匿名にする 宛名から零れる恋はそのままにして
(ほきいぬ)匿名の世界ぬけ出し触れ合えば君はどこでもいる女の子
(水沢遊美)照れてまた憎まれ口をたたくから匿名さんにしといてあげる
087:麗(130〜154)
(こなつ) 「麗しのサブリナ」知らぬ我なれど サブリナパンツ気取って歩く
(さと) 錦繍の衣纏いて夢を見る 鄙も都も秋は麗し
(蓮野 唯) 美辞麗句並べて空しい冬の夜ドラマ終われば恋も幕引き
ひぐらしひなつ) 澪つくし逢いにはゆけず高麗鴉の去りし水辺にゆらゆらといる
091:旅(132〜156)
(振戸りく)かわいくはないけど旅をさせている子どもを駅に迎えに行こう
(小倉るい)帰ってきた寅さんが又旅に出るように仕事を休みたい秋
(わたつみいさな) 誰もいない場所で泣いたりできるかな旅の途中で朝は来るかな
(纏亭写楽) この旅の遙かな道のり思うとき僕らはゆっくり道草をする
(イノユキエ) はっきりと過去になるまで仕舞いおく『2010年宇宙の旅』を
ひぐらしひなつ) 逸脱を夢見て朝のひだまりに旅行鞄を置く十二月



第3便で終わりだと思っていたのだが、結局第4便に届いた。まだ投稿は続くのだろうが、どうせ今日すべてを見終えることはできないだろうから、後は明日の最終選ということにしたい。(23:00)


             選歌集・その76

090:恐怖(134〜160)
(イノユキエ) ストーブの火に照らされて読む恐怖小説はまだ何も起こらない
(一夜) 昔から恐怖映画も小説も避けて生きてるお化けなんです
(わたつみいさな) クレパスで恐怖に色を付けてみる羊の数の夜が瞬く
(竹中 えん) まだだれも好きになれない暗闇にひそめば恋はやさしい恐怖
ひぐらしひなつ) いささかの対人恐怖やわらかく萌して日曜日の山手線
(秋篠) 本心を、告ぐには恐怖が伴なうし。おぼえてしまったリップサービス
(はせがわゆづ) ゆっくりとおろしたまぶた恐怖心なんてなかった夜空の素足
092:烈(130〜157)
(小倉るい)目立ってるキャラではないし強烈なアピールも無いねこに餌やる
(纏亭写楽)烈日に高層ビルのゆがむ日は茶店でアイスコーヒーを飲む
ひぐらしひなつ) 烈しさを見送り秋の机には白紙のままの手紙がのこる
(はせがわゆづ) カーテンの向こうの濃い靄花冷えの朝鮮烈にあなたを思う
093:全部(131〜157)
(キキ)なけなしのやさしさ全部つめこんだ袋をもらう引越の朝
(zoe) 一日を全部まとめて裏返しアイロンかけて眠りたい今日
(竹中 えん)もう全部は思い出せないあのひとの薄墨色の細い輪郭
094:底(128〜155)
(わたつみいさな)ひとつずつマイナス要素を噛み砕き奈落の底でぼんやり座る
(蓮野 唯) 缶ビール底に残った一滴を丁寧に飲む仕草に和む
ひぐらしひなつ) 眼底を揺らぐひかりに刻まれた夏を手放さずに生きてゆく
(春村 蓬) どこからも底の見えない穴がありひろひろと鳴る秋のこの胸
095:黒(128〜154)
(田中ましろ)いつだってないものねだりばかりした君のひとみは黒くて強い
(振戸りく) また黒い服を買ってる 春物の新作ばかり並んでるのに
(藤野唯)黒糖はやさしく甘い 泣きながらきみへのてがみを書き上げました
(纏亭写楽黒点は太陽にさえあるのだと許せぬ自分に言い訳をする
(竹中 えん)黒髪に戻して夏の灯台に佇み海の風になりたい
096:交差(127〜154)
(田中ましろ)悪口も言えばよかった 交差して生まれる憎悪それから恋慕
(伊倉ほたる) 憧れも淡い嫉妬も知っている吊りスカートの背中の交差
ひぐらしひなつ)今日われに抱かれる人が交差点越えて陽射しのただなかを来る
097:換(127〜154)
(南雲流水)乗り換えの駅まで待てぬ携帯が掌の中で溶けかけている
(春村 蓬) 換気扇の羽をピカピカに磨くこと老後の趣味のひとつに入れる
098:腕(128〜152)
(わたつみいさな) 抱き寄せる君の腕でも眠れない夜ばかりきてまた夜がくる
(伊倉ほたる) 陰影に獣のエロス漂わせノースリーブの腕は汗ばむ
(南雲流水)うたた寝の枕代わりに腕を貸す甘えるような蜜柑の香せり
(藤野唯) 眠ってるあなたの腕にからまって基礎体温計咥える6時
(イノユキエ)  腕時計がわたしの一部だったこと止まった針を何度でも見る
ひぐらしひなつ)風知草ひかる庭から抜け出してあなたの腕におさまりにゆく
099:イコール(131〜156)
(纏亭写楽)求め合う気持がイコールだった日は互いのメールもシンクロしていた
(さくら♪)越えたくて追いつきたくてイコールになれない想い抱えて走る
(豆野ふく) イコールの右と左に置いてみる あなたの嘘とわたしの本当
100:福(128〜154)
(纏亭写楽) 福の字が逆さであるということの意味を知る日のうまい海老チリ
今泉洋子) 福氷と受験生の呼ぶ神木の氷柱ひかりて朝日の昇る
(イズサイコ)向かい合い「はい万歳」と服脱がす祝福誘うような始まり
(五十嵐きよみ)キスアンドクライの君に幸福な笑顔が戻るまでの道のり