題詠100首百人一首

                2010題詠100首・百人一首

001:春
(水絵)花冷えに少年僧の声澄みて 小袖まといし春の山々
002:暇
(伊倉ほたる)指先で暇をつぶした箱の中チェルシー柄の鶴が犇めく
003:公園
(映子)雪音の軋む足あと 光らせて 想い出たどる 白き公園
004:疑
(西中眞二郎)それまでは生あることを疑わず十年日記を買う年の暮れ
005:乗
(青山みのり)不覚にも入道雲の乗り方を覚えぬままに年をとりたり
006:サイン
(行方祐美)サインなき手紙のやうな海のいろ肋骨の下がまた痛み出す
007:決
(久野はすみ) 青春は未決囚なり珈琲の染みの残りし臙脂のソファー
008:南北
(南雲流水) 南北の自由通路で渡されたホワイトティシューと雨の湿り気
009:菜
(龍庵)どうしても風に揺られる菜の花のことしか思い出せない別れ
010:かけら
(星桔梗) どれほどのかけらを集めて紡いでも想いはいつも未完成パズル
011:青
(水沢遊美) 突き抜けた青空みたいになりたくてターコイズブルーのドレスを選ぶ
012:穏
(こなつ)穏やかな夜に別れを告ぐるころ 春も名のみの小糠雨降る
013:元気
(秋月あまね) 決心の言葉の軽さ「元気で」にいともたやすく挫かれている
014:接
(お気楽堂)昼休みきつねうどんを食べていた顔がすまして面接に来る
015:ガール
 (周凍)いにしへの高みはるかな声ならむガール川越す橋の水音
016:館
(田中彼方)折り紙はエンゼルフィッシュに、この部屋は水族館に変わる、雨の日。
017:最近
(bubbles-goto)ねじ山のつぶれかけてる最近は思い出すのに時間がかかる
018:京
(氷吹郎女)憂鬱をくるくる丸め包むなら京紫の風呂敷がいい
019:押
今泉洋子)軍服の伯父の写真が掲げられ実家(さと)の長押に終はらぬ昭和
020:まぐれ
(宵月冴音)モスクワに雨降る秋の夕まぐれ 露西亜のパンはすこしあまくて
021:狐
(如月綾)あれはきっとすっぱい葡萄と諦めた狐みたいに君を忘れる
022:カレンダー
(高松紗都子)カレンダーやぶく季節の裂け目から未来のようなものの手ざわり
023:魂
(揚巻)澱のごと我がことだまの底に棲む鬼から鬼へ帰(き)す鎮魂歌
024:相撲
(竹中 えん)境内で相撲を取りしあの夏から乳房はそっとふくらみを増す
025:環
(さくら♪) 夏服に着替えた朝ははにかんで少しうつむく深山苧環
026:丸
(ふうせん)完熟を待てずに君が頬張ったトマトは丸のままの夏です
027:そわそわ
(清次郎) そわそわと君を待つ朝玄関の消火器使用方法を読む
028:陰
(tafots)静物に陰をつけゆく絵の外の光の在り処を確かめながら
029:利用
(村木美月) 女という武器利用してしたたかに火の粉を払うわたくしもいる
030:秤
佐藤紀子)さそりより乙女が好きな天秤座 今宵は少し傾きてをり
031:SF
(斉藤そよ) パーキングエリアは濃霧 SFの扉のごとくひかる自販機
032:苦
(おっ)すっぱくも甘くもなくて初恋は舌がざらつく苦笑い味
033:みかん
(村上きわみ) 網棚に冬のみかんを香らせて帰るところがあるひとになる
034:孫
(アンタレス)来る筈の孫の来ずして買いおきし節分の豆声ひそめまく
035:金
(酒井景二朗) 金文字の「福」がさかさに貼られてゐる店で飮み干す天地玄黄
036:正義
(わだたかし)信じてた自分の中の正義さえ分からなくなり朝を迎える
037:奥
(はせがわゆづ)けだるげに奥歯をさぐる指を噛む明日はやさしいひとになりたい
038:空耳
(桑原憂太郎)ケータイの着信バイブも空耳のフリして午後の授業を流す
039:怠
(南野耕平) 存分に怠けましたという顔が連休明けの座席に並ぶ
040:レンズ
(リンダ) 湯気ごしの曇ったレンズ拭きもせず立ち食い蕎麦をすする駅前
041:鉛
(穂ノ木芽央) 二十四の色鉛筆でも描ききれぬ汚れた壁に沁みた思ひ出
042:学者
(湯山昌樹)理科室より出で来る子らはいっぱしの学者の顔で階段下りる
043:剥
(内田かおり) 蝦夷鹿が耳立てて食む白樺の皮の白きよぐるり剥かれて
044:ペット
ひぐらしひなつ) ペットボトル逆さに振ってこの夏も告げずじまいの言葉を刻む
045:群
(はこべ) 取り壊す道路予定地詰草は匂うが如く白く群れおり
046:じゃんけん
(牛 隆佑) じゃんけんぽいあっちむいたら鰯雲/焼場の煙/君のスカート
047:蒸
(中村成志) 中骨にわずかににじむ血の色よ蒸甘鯛の身は姉に似て
048:来世
(小林ちい) 来世ではあなたの子どもに生まれたいあなたの腕に抱かれて眠る
049:袋
(髭彦)表参(オモサン)と聴きてのけぞる馬場(ババ)・袋(ブクロ)・三茶(サンチヤ)・中目(ナカメ)は知りたる吾も
050:虹
(小倉るい)この山のりんごに薬かけるとき北上川に夕虹の立つ
051:番号
(春村 蓬) あの頃はわたしの証であつたのに思ひ出せない出席番号
052:婆
(新田瑛)華やいだ後は小さな虫になってお転婆むすめはおうちへかえる
053:ぽかん
(一夜) 気がつけば老いの階段降りていた ぽかんぽかんと靴など飛ばし
054:戯
(新井蜜)戯れに握るきみの手小さくて季節はづれの酸つぱい林檎
055:アメリ
(畠山拓郎) アメリカはいつも黒船 突然に会計基準もISOも
056:枯
(橘 みちよ)見送りの朝にすさびし木枯らしの音もいつしか忘られて夏
057:台所
(詩月めぐ)西日差す台所に立つ母の背が悲しく刻む千切りキャベツ
058:脳
(ちょろ玉)驚いた君を脳裏に焼き付けてむかしの夢をあきらめに行く
059:病
(翔子) 病み飽きて犬など飼ひし秋の日をやむなく歩く町はずれまで
060:漫画
(瀬波麻人)積み上げた漫画の塔のぐらつきにレモンをのせて昼飯に出る
061:奴
(わたつみいさな)いい奴で終わっていいし昨日から靴のかかとは踏んでいないし
062:ネクタイ
ウクレレ)触角のようにネクタイ踊らせてきみに会うため駅まで走る
063:仏
(ワンコ山田) 野仏の雨ざらしゆえやわらかくすり減ることと違う日常
064:ふたご
(ゆらり) ふたご座を探すそぶりで聞いていた遠のいていく君のさよなら
065:骨
(藤野唯) くらやみにまどろみきれず触れているあなたの手首の骨がいとしい
066:雛
(みずき)雛流す後は無聊の部屋ならむ問ひて沙汰なき三人官女
067:匿名
(櫻井ひなた) 知られたくないけどわかってほしかった 匿名の裏にあたしはいます
068:怒
(晴流奏)お囃子は怒涛の如く押し寄せて回るねぶたは大見得を切る
069:島
(船坂圭之介)こころすでに吾を離るる哀しさは告げず白薔薇咲く島を去る
070:白衣
(黒崎聡美) おさなごの瞳のような白衣着た実習生のあふれる四月
071:褪
(鮎美) 紫陽花に色の濃き群れ淡きむれありて等しく褪せてゆきたり
072:コップ
眞露)酔いたくて肴一品コップ酒満たされぬまままた夜が更ける
073:弁
(青野ことり)真白い蕾は未だほころびず 花弁の元に紅を隠して
074:あとがき
(振戸りく)長編の恋愛小説だとしたらあとがきあたりを書いてるところ
075:微
野州)白色に紅は微かに沈みゐて一日花の底の明るさ
076:スーパー
(山田美弥) 我だけのスーパーマンは我だけを傷つけたまま飛び去って行く
077:対
(砂乃) 鮮やかな欅の緑をくぐり行く対向車線の君を見送る
078:指紋
(音波)親指の少し指紋が破けてるところが記憶の夏の入り口
079:第
(鳥羽省三) 第二夜は「座敷わらし」の話なり奇譚十夜は今宵盛況
080:夜
陸王)白昼に蝋燭を消す誕生日夜は独りでサザエさん観る
081:シェフ
(まといなみ) 駄菓子屋の百円焼そばあの店のあのばあちゃんが僕たちのシェフ
082:弾
(闇とBLUE) 日焼けした五人の少女がまとってるパステルカラーの弾む公園
083:孤独
(田中ましろ)「人生に苦みをプラス!」コンビニに並んだ孤独をひとつ手に取る
084:千
(梅田啓子)忘れたき記憶のふいに浮かびきて千切り大根多めにきざむ
085:訛
(理阿弥)連結器のかこち言まで訛り帯び石勝線はトマムを過ぎる
086:水たまり
(イノユキエ)異世界へ落ちそうな夜の水たまり踏めば頭上で月がくずれる
087:麗
(蓮野 唯) 美辞麗句並べて空しい冬の夜ドラマ終われば恋も幕引き
088:マニキュア
(菅野さやか) マニキュアがとれたら夜は終わります朝には糠床かき回すので
089:泡
(原田 町) 泡だちの良き石鹸とセールスに騙されたりき戦後の母は
090:恐怖
(sh) 吸血鬼 おばけ 怪獣 ひとごろし  恐怖におびえて子どもは眠る
091:旅
(七十路ばばの独り言)旅にあれば日頃の仮面脱ぎ捨てて七十路女ははしゃぎて過ごす
092:烈
(纏亭写楽)烈日に高層ビルのゆがむ日は茶店でアイスコーヒーを飲む
093:全部
(夏実麦太朗) さもしきはわればかりかと思いつつ缶コーヒーを全部飲みほす
094:底
(コバライチ*キコ)螺鈿敷く文箱の底はひんやりと元禄の夢閉じ込めており
095:黒
(中村あけ海) 輪転機回し疲れて真っ黒な両手で開けるカロリーメイト
096:交差
(こゆり)年の瀬のにおいがしてる交差点じゃらじゃら小銭ばかりが増えて
097:換
(五十嵐きよみ)最後には辻褄が合う物語「嫌い」が「好き」に置き換えられて
098:腕
(空音)腕を組む事すらできず君の肘のシャツを掴んだ19の春に
099:イコール
(豆野ふく) イコールの右と左に置いてみる あなたの嘘とわたしの本当
100:福
(飯田和馬)仲直りする気持ちごと棄てました。薄紅透けるいちご大福