題詠100首選歌集(その2)

 朝起きたら、珍しくかすかな雪が降っていた。今年になって初めてのお湿りだ。雪国の人への申し訳なさが、ほんのちょっぴり減ったような気もしていたのだが、昼前からまた日が射して来た。
 (今回から、在庫25首以上の題を10題というルールに戻って、選歌を進めて行きたいと思っている。なお、題の後の数字は、主催者のブログに記載されているトラックバックの件数である。これまでの例では、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品数とは一致しない場合もある。)


           選歌集・その2

001:初(73〜99)
(さと)朝未き 小さき土竜 初霜に死に化粧され こそりと光る
(足知)マフラーを髪にも巻いた寒がりのあなたを胸に仕舞った初冬
佐藤紀子) 初雪を盆に集めて作りたり明日は融けゆく小さなうさぎ
野州) 宵少し長くなったという声のそこかしこして初午祭り
002:幸(73〜99)
(湯山昌樹)それぞれに幸いあれとつけられし名前持つ子ら三十一人
佐藤紀子) 新しき年の幸せ願ひつつ年賀状には子うさぎを描く
(コバライチ*キコ)「幸甚です」堅き言葉を使いつつ背伸びした日のOLの吾
003:細(45〜70)
ウクレレ)細心の注意を払い虹の橋の紫だけをきみと歩いた
(天鈿女聖)君に似た細くて小さな文字たちが伝えるありがとうがうれしい
(原田 町)細々と生きるも楽し道の辺の土筆はこべを摘みつつ行けば
(中村成志)しなやかに舞いし宇受賣(うずめ)の足ゆびの皹(あかぎれ)いよよ細くあからむ
004:まさか(32〜56)
(富田林薫)よく冷えたアクエリアスの気泡からまさかのような夏がはじまる
(黒崎聡美) まさかさまに家々うつす町川のかなしいことはひとつもなくて
(akari) 平凡は主からの恵み巷にはまさかまさかのニュースあふれる
(村木美月)知らなくていいことばかり増えていく君のまさかに選ばれてから
005:姿(1〜27)
(夏実麦太朗)闇に立つ観音菩薩立像に姿勢の悪い何体かあり
(吾妻誠一)焼き焦がれ紅く肌染め重なるか 浜焼き鯖の姿寿司食う
(アンタレス) ちらと見し吾がはだか身の崩れしに姿見を返す老いの悲しさ
(nobu)姿見しときより恋は始まるか君のうなじにうつろふ季節
(紫苑)姿見にかかる端布(はぎれ)は佳き日々の名残か祖母は百歳(ももとせ)を生く
(髭彦)世も末と思はぬでもなし愛猫の空に腹向け眠る姿に
(たえなかすず) 激情と呼ぶにはふたり若すぎたあなたの後ろ姿に氷雨
006:困(1〜27)
(成瀬悠太) こんなにも綺麗な虹を見てるのに困ったように笑ってしまう
007:耕(1〜27)
(tafots)耕運機渋滞ですか 後続のタイヤが土をゆっくりと轢く
(夏実麦太朗) 耕せば土のにおいが立ちあがり千年前の私にもどる
(鮎美)今もなほ我を呪ふは毛筆の授業に書きし「晴耕雨読
(浅草大将) 耕して拓く楽土の夢さへも荒れ野の果てに伯父は眠れる
(紫苑) 晴耕をやむるは亡妻(つま)を想ひてか釣りに興ずと文の来たれり
(草間環)晴天の下で耕す黒土の香を嗅ぎながら一日を過ごす
(飯田彩乃) 来世ではみみずに生まれ変わりたい 冬まだ夢を見る耕耘機
008:下手(1〜25)
(tafots) 地謡は下手に湧き出 能管の音がざわめきを静まらせゆく
(鮎美)花束を抱へて下手袖に待つ少女にあはく舞台のひかり
(猫丘ひこ乃)下手なりに心預けるように書く写経の中に君の名がある
(南野耕平) 生きるのがだんだん下手になってきて空の青さが重たいのです
(さと) 今日もまた 相も変わらぬ下手な嘘 そんなあなたが嫌いで好きだ
009:寒(1〜26)
(成瀬悠太)寒空を飛行機雲が横切って最終回のように消えてく
(猫丘ひこ乃)寒がりの君をつつんでゆくように赤いオカリナ吹く風の中
(紫苑) 禍きまでひたくれなゐにしなだるる寒緋桜(かんひざくら)を身ぬちに抱く
(浅草大将)満州の冬を思ひてやまがたの寒河江の街に雪は荒れつつ
(みずき)悴みてふるふる寒き風音のあはひへ堕つる白き冬空
010:駆(1〜25)
(オリーブ)吾のなかを駆けめぐりゆくかなしみは胸のうちがわ蒼に染めゆく
(アンタレス)人生の持ちし夢をば奪われて闇の年月今駆けぬけぬ