題詠100首選歌集(その5)

             選歌集・その5


003:細(97〜121)
(雑食) 薬瓶みつめてやがて細くなるきみの鼓動をただ聴いている
(ちょろ玉) 黒板を君はメガネをかけて見る 僕は細めた目で君を見る
(船坂圭之介) 月細く欠く冬の夜の穏しきに浮かび来るかの白きゐさらひ
(Yosh) 細々と生きる重さを噛み締めつつ一人で過ごす如月の夜
(A.I) 如月に降る細雪 いちど着た服を洗濯機から取り出す
004 : まさか(82〜106)
(内田かおり) 風立ちて岩場の陰に身を寄せし我をまさかと嗤う波の間
(みち。) まさかって疑うこともなくなってただ通り過ぎるだけの伏線
(雑食) まさかとかひょっとしてとか問い詰める必要のないいいひとでした
007:耕(53〜78)
ウクレレ)もう二度と恋をしないと決めていたきみの大地を歌が耕す
(螢子)動かない耕運機にのる少女には夢の広がる夏の昼下がり
(原田 町) 耕作を罷めし畑の増えゆきてスーパーに買う異国の野菜
(牛 隆佑)遠くから君が来るのを待っている月の砂漠を耕しながら
(紗都子)耕して畝を立てればやわらかく土ふくらみていのちを宿す
(コバライチ*キコ)黙々と畑横切る耕運機大海原の鯨のごとし
(五十嵐きよみ)猜疑心などとは無縁の清やかさ水耕されて咲くヒヤシンス
(船坂圭之介)おぼろげの月を浮かべて闇はありしみじみといまこころ耕す
011:ゲーム(26〜51)
(海音莉羽) 携帯の恋シュミゲームの中にさえ 君の面影探してしまう
(保武池警部補) 彼の者よ残ったゲーム未知の世の魑魅、M U(ムー)、解脱。 この世の物か
(梅田啓子)ノーゲームにしたき恋など想いおり わが街に降るはじめての雪
(牛 隆佑) ゲーム機の電源を切る要領で今日の私を終わらせてゆく
(星川郁乃) ゼロサムのゲームなんだね 思いきり甘くして焼くジンジャーケーキ
(紗都子)シューティングゲームのように照準をさだめて冬の駅に降り立つ
012:堅(26〜50) 
(行方祐美)堅梨の切り口つつとひかりゐて雪のなき朝しろく明るし
(梅田啓子)鉛筆が本の間(あい)よりころげ落つ堅きキャップの創(きず)を残して
野州ブラームスをリクエストして背もたれの堅き椅子にてしばらく眠る
(akari)意味もなく堅い絆を信じてた愚かな自分ちょっぴり好きだ
019:層(1〜25)
(映子) ばあちゃんと 母さんわたし で かき混ぜた   オンナ三層 ぬかどこ伝説
020:幻(1〜25)
(西巻真)あといくつの死を分かちゆく日々なのか ゆふべ汗馬の幻を見き
(猫丘ひこ乃)夕立に幻想即興曲を弾くノクターンとは違う目をして
(まるちゃん2323) 暮れていく尾根のすきまの けもの道河童立ちゆく幻を観る
(みずき)幻想を科学に変へて青き薔薇 雪降る春に咲くかあしたは
(さと) 梅東風や 入り江に浮かぶ知らぬ街 風待つ船の灯す幻燈
(紫苑)ひとりゐて閨が窓辺に降る雪にかさね見つるは花の幻
021:洗(1〜25)
(西巻真)うつむけばまたこぼれゆくかなしみにしづかにかほを洗ひつつをり
(みずき)洗剤にふはりと浮かぶ裸身ゆゑ冬陽炎と消えて真夜なる
(吾妻誠一) 病床のエタノールにて洗う髪 澱みをさらう南風(なんぷう)嬉し
(アンタレス) 洗礼を終わりて大き鐘が鳴る8月6日原爆受難日
022:でたらめ(1〜25)
(tafots) 妹のいつもの甘い鼻歌にでたらめな詞をつける恋人
(紫苑) でたらめに置きしと思ふ色柄の相響きあふカンディンスキー
(まるちゃん2323)双六のさいころ振ればでたらめに間引きする手の神が降る夜
(こはぎ)騙されたふりしてあげる でたらめな言い訳並べる君の唇
(みずき)でたらめな政治に壊れゆく街へ冬の木の実の熟しゆくなり
(アンタレス) 娘等二人昔語りしでたらめの童話ききおり今も忘れず
(螢子)でたらめな差出人の住所です返品きかぬ私を送る
023:蜂(1〜25)
(成瀬悠太)三段のホットケーキに蜂蜜を垂らす瞬間 笑みがこぼれる
(みずき)かの国の蜂の巣族とふ傷ましきやつれし夢へとほき国境
(こはぎ)ゆびとゆび絡めた先から溶けてゆく蜂蜜色した僕らの吐息
(猫丘ひこ乃) 熊蜂のような黄色いチョッキ編む春が近づく棒針の先
(南野耕平)冬蜂の歩みに心うばわれて月の光はやわらかくなる
(オリーブ)蜂蜜の色に暮れゆく教室で満たされぬまま散らす五線譜