題詠100首選歌集(その7)

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して7年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


           選歌集・その7


001初(126〜151)
(船坂圭之介) 執着のあまたを捨ててなほ残る思ひはひとつ初恋の華
(A.I) 初霜に黒きタイヤを滑らせて朝の記憶を塗り替えてゆく
(氷吹郎女) もう一度会えたらきっと「初恋はあなたでした」と笑って言える
005:姿(83〜107)
(空音) 防御服白く膨らみ鶏舎へと向かう姿は鶏に似て
(只野ハル) 姿見に映る我が身の虚ろさよその目は何も現してない
(内田かおり)穏やかな姿返して荒れ始む白き波頭は怒りを保つ
月夜野兎) 本当の姿を見せる勇気なく いつも気丈なオンナ演じる
006:困(79〜104)
(村木美月)少しだけ困らせたくて突き放すさよならを言う覚悟も持たず
(氷吹郎女) 伏せられた睫毛ゆらめく 困らせてみたかったのと今は言わない
(千束) 困ってる顔が見たくて押し付けた 抱えきれない花束とうそ
(浅江もも) 本当に困った時にはしない顔している私が私はきらい
(A.I) 愛猫がマリアヴェールに眠るのを困った顔で抱きあぐねてる
009:寒(54〜82)
(星川郁乃) しんしんと雪の向こうに眺めてる雪の降らない町の寒さを
(稲生あきら) 居心地の悪いひとりの部屋にいて「寒いなあ」とかつぶやいている
(横雲) 寒紅に美しき嘘隠しつつ髪結い直す月高き宵
(船坂圭之介)思ひみればわが存在のはかなさに気づき居り夜は寒く更けゆく
(新田瑛) 働いてはじめての冬寒冷地手当で買った赤い手袋
ウクレレ) 寒風にぼくらの春はまだ遠く冬が大きく寝返りを打つ
(五十嵐きよみ) うそ寒い言葉を重ねたくちびるにふだんより濃く紅を引きゆく
(黒崎聡美)首もとに寒さはあつまりもうきみの言葉は遠い 日付がかわる
(本間紫織)目を閉じて今日もあの日の雪が降る 寒中お見舞い申し上げます
010:駆(52〜79)
(星川郁乃)駆け出してゆく背中ずっとずっと見ていたかったまた春がくる
(富田林薫)しおさいのあなたを求め呼吸するわたしの内に疾駆する馬
(足知) 駆けるしかなかっただろうあなたには僕には今しかなかったように
(横雲)星流る空の下にて抱かるる天駆ける馬身の内に居て
(船坂圭之介) あからひく肌もあらはに二人して駆けゆきぬ大きバイクに乗りて
(原田 町)雪道をものともせずに来るきみよ四輪駆動に苺を積んで
016:絹(26〜50)
(行方祐美)垂れ絹の風透かしゆく真夜の音山のあなたの空とほくしつ
野州) 安寧はひと日ともたず絹漉しの豆腐のように崩れゆく空
(梅田啓子)絹さやの彩りそえる筑前煮ひとあし早く春の近づく
029:公式(1〜25)
(猫丘ひこ乃) 沈黙の中で導く公式に君を絡める隙間は無くて
野州) 公式戦といえど凡戦隠すなく麦酒売り娘の二の腕まぶし
030:遅(1〜26)
(南野耕平) いつもなら少し遅れるはずなのに意地悪すぎる定刻のバス
(成瀬悠太)遅咲きの桜の花が散り逝くをふたり眺むるような青春
031:電(1〜25)
(夏実麦太朗) わが街の西にそびえる電波塔そこより先は異界のごとし
(みずき) 電飾の点る季節の端にゐてナショナリズムをふと思ひをり
(オリーブ) 海風が部屋にたちこめてゆく夜は 鳴らない電話抱きしめて眠る
032:町(1〜25)
(夏実麦太朗) 市は町をのみこんでゆき何ひとつ昨日と変わることのない空
(浅草大将) みなと江にたつ家なみのうち続き山へと寄する尾道の町
(まるちゃん2323)遠吠えとサイレンの音すれ違い夕日が落ちるこの町が好き
(成瀬悠太)終わり行く今日という日の弔いに町は灯りを灯していった
(螢子)縁台の二人は町を見つめてるひとつまたひとつあかりが点る
(南野耕平) 町内会役員という人も来て噂話の花は満開
(横雲)連れ立ちて寺町を行く春の宵憾みの裾を翻す風
(猫丘ひこ乃)水色の電車が走る町に住む友の手紙のそよ風のいろ