題詠100首選歌集(その10)

 3月に入ったが、寒い日が続く。走者の方々もまずまずのペースで進んでいるようだ。


        選歌集・その10


001:初(152〜176)
(水絵)気まぐれな冬将軍の置き土産 子等のはしゃぎて初雪の朝
(拓諳) 触れあつたふたりの指のぬくもりをこわさぬように初雪をふむ
005:姿(108〜137)
(nahema)はねた髪気にして僕を待つ姿こっそり心でシャッターを切る
(三沢左右)水面に姿とどむるオリオンの逆向く先に浮かぶ思ひ出
(伊倉ほたる) うらおもて半分ずつの本音持つ後ろ姿の猫はさみしい
014:残(53〜77)
(安藤三弥) 残雪が溶けこみ眠る一角に咲いてる花を君と見ていた
(砺波湊) 居残りの教室の窓 門を出て振り向けば怯みそうな明るさ
(髭彦) 残さるる者にとりてはゴミならむ手放しがたき蔵書の山も
(本間紫織)春を待つ畳にぽとり残された サヨナラ 一人ぼっちの私
(水風抱月)細波の寄せては返す溜息にひかりの残滓またたくを見る
(皐月)輪廻する星間ガスも残さずに掻き消えた星は悲しからずや
015:とりあえず(53〜77)
(星川郁乃)春の声で言いわたされたさよならをとりあえず受け取って 風花
(コバライチ*キコ) 鳴り響く目覚まし時計をとりあえず止めてぼんやり今日を思えり
(皐月) もとめてもこがれていてもただひとりあえずにすぎたときのいとしさ
(原田 町)とりあえず戸棚にしまった物などを忘れてしまうこの頃である
(A.I) とりあえずビール・枝豆・乾きもの 刃を使わずにはじめる宴
021:洗(26〜50)
(行方祐美)洗芋のシチューをふつふつ煮てをりぬ椿がもうぢき首墜す頃
(千束)灰色の羊が仰ぐ空のいろ洗いざらしヘブンリーブルー
(砺波湊)もっと青い空が見たくて手洗い場の蛇口をぜんぶ真上に向ける
022:でたらめ(26〜50)
(香村かな) 今日だけは君のどんなにでたらめなフレーズだって薔薇になるから
(梅田啓子)改札口でたらめーるをして下さい。赤い帽子を被っています。
023:蜂(26〜50)
(横雲)花蜂の飛び交ふ苑に咲く花の蜜に魅かるる心地して駆く
野州) 梨の木に梨の花咲くこれの世の空に蜜蜂の巣箱を開ける
(香村かな) 美しき花を渡ってきた蜂の微かな羽音ちりばめて春
040:伝(1〜27)
(tafots) 七区まで見ていた箱根駅伝をどこが勝ったか知らずに帰る
(吾妻誠一) いたずらな河童が棲むと伝え聞くワンドも夏は子らはしゃぐ声
(螢子)伝わらぬ想いをひとつ水底に沈めています春はすぐそこ
(香村かな)まだ君に言ってなかった過去さえも伝わっているような木漏れ日
041:さっぱり(1〜25)
(紫苑)さつぱりと剃り跡あをき襟足の背(せな)に匂へる祭り半天
(みずき)さつぱりと捨てたき恋へ遠き雪山峡に降りこの玻璃に降る
(オリーブ) 檸檬水飲めば想いもさっぱりと消える気がした雨降りのカフェ
042:至(1〜25)
(映子) シアワセに 至近距離です 原宿の表参道 コロッケ通り
(紫苑) いのちにも代ふる至福を知らぬまま永遠(とは)に彷徨ふ蓬髪のかげ
(みずき) この瀧へ至りて風が雪になる肉汁熱き宿を尋ねり
(アンタレス死に至る病持ちつつ生きる身にキルケゴールよ何をかたらむ
(オリーブ)セーターに抱きとめられる夜ありて紺が至福の色となりゆく