題詠100首選歌集(その12)

         選歌集・その12


004:まさか(132〜156)
(伊倉ほたる)やわらかな嘘はそぉっと包み込む まさかが目覚めてしまわぬように
(三沢左右) 君の言う「まさか」は僕の当然で、でも分かり合う、そんな距離感
011:ゲーム(78〜102)
(五十嵐きよみ) 神の目が見下ろすゲーム盤上に駒の一つとして立っている
(黒崎聡美)九歳はサラリーマンを選ばないしずかな夜の人生ゲーム
(ほたる) 七人のうちの五人がケイタイのゲームに洗脳されてる電車
012:堅(77〜103)
(A.I)庭で摘みし薬味を添えり初夏の堅魚をさっと火にくぐらせる
(五十嵐きよみ)式典の堅苦しさをまぎらわす来賓たちを野菜に見立てて
(音波)足音が堅実なのは気のせいで分かれ道ではだいたい迷う
(富田林薫) 堅い人だらけの街の夕暮れに海月のような思いを伸ばす
(雑食)君という記憶はやがてはじめての接吻(キス)の堅さを残して消える
016:絹(51〜75)
ウクレレ)きみはまだ絹ごし豆腐の恥じらいを忘れていない大人の女
(A.I)身につけるもののすべてがうとましく絹の靴下みづに沈める
(芳立)砂原と海をわたりて唐絹の道のかぎりにさくらまほろ
024:謝(27〜51)
(千束) 沈黙にグラスの破片拾い上げ 謝ることすら遠く思えた
(香村かな)素直には謝れなくてまた君のメールを待ってしまう夕暮れ
(砺波湊)眠いのか謝ってるのか目を離せばソフトクリームは頭を下げる
025:ミステリー(27〜51)
(香村かな) 満月に香るふたりのミステリー俯いたときはじまる序章
(砺波湊)三十分たつのに誰も死なないと焦る二時間ものミステリー
049:方法(1〜27)
(横雲) などてかく思ひそめけむ澪標(みをつくし)夕さりつ方(かた)法(のり)の声聴く
野州)性欲と文名併せ満たしゆく方法もとめ書く私小説
(オリーブ)飛ぶための方法はもう分かってて白いスカート散らす星屑
(千束) 皆同じ制服まとい息継ぎの方法さえも知らなかった日々
050:酒(1〜26)
(浅草大将)思ひ出を琥珀の酒に飲み干せば身ぬち燃えくる黄昏の海
(みずき) 甘酒をくくむは竹箸一本と混ぜし記憶に海が啼いてる
(横雲)花びらの浮かべる朝の菊の酒少し乱れて女澄みたり
051:漕(1〜25)
(みずき) 湖に溢れる空を春へ漕ぐ捨つる夢さへ狂ほしき青
野州)山あいに銃声を聞く霜の朝思慕つのるまでペダル漕ぎ行く
(吾妻誠一) 白南風の震える川面駆け抜ける 漕艇2艇とコックスの声
053:なう(1〜25)
(tafots)裏切りをあがなうための蜜として君と私に降る朝の雨
(まるちゃん2323) 若草がいざなう朝の薄明かり風まだ寒く春もそろそろ
(船坂圭之介)そんなうそついては駄目と叱りしがわが幼児期は如何なりしや
054:丼(1〜25)
(紫苑)開化丼はじめし日より荒井屋の暖簾にけふも浜風の吹く
(飯田彩乃)ふと見ればお茶碗程度の憎しみが丼ほどに膨れていたり
(船坂圭之介)独り身のわが作りたるラーメンの三筋残れる丼 あはれ