題詠100首選歌集(その13)

 去年のブログを覗いてみたら、3月10日で、選歌集その12、題は46までとなっている。それと比べれば、今年は少しペースが速いようで、ご同慶の至りだ。

        
           選歌集・その13

003:細(150〜174)
(美亜) さよならを伝えることも出来ぬまま佇む我に降る細雪(ささめゆき)
(尾崎弘子) 剪定に切りそびれたるバラの木の細き枝には細き棘あり
(砂乃) 細かさを時には忘れて横たわる草いきれには大地の香り
(佐田やよい)細く陽の光はさして図書室の古き書物に挟みこまれる
017:失(51〜77)
(コバライチ*キコ)ジャスミンの香り失せたるベランダに差し込む夕陽の色は冷たし
(ぽたぽん)いまここで必要なのは向かい風失速せずに飛び立つための
(牛 隆佑) 僕もまた誰かにとっての失ったものでありえて宙を漂う
(三沢左右)酒酔ひに現心の失せぬればまたたく星のいやまさりけり
018:準備(52〜76)
(足知)グローブとボールの準備をするあなた天気予報は雨だと告げる
(星川郁乃) ゆきすぎた準備がときに悦びを削ぎひとびとの背中の丸さ
(さくらこ)「準備中」心のドアにかけて待つ 君が来店してくれるまで
(ちょろ玉) 「あたしもうひとりで平気」と告げられて突然はじまるフラれる準備
(牛 隆佑)夕食のカレーの準備もそこそこに君は昨日を捜しに行った
ウクレレ)準備中と営業中しかない店で働き今日も君に会えない
(砂乃)珈琲と煙草の香りの準備室体育教師の怒声の響く
(酒井景二朗)青春は準備不足のままに來て何も殘さず過ぎ去りにけり
026:震(26〜50)
(津野)生まるるを違えた蝶は密やかに羽震わせて一度だけ翔ぶ
(香村かな)着信の震えを君の心音に重ね合わせている午前二時
(梅田啓子)さびしみは鍋の豆腐のくふくふと震える頃にうすらぎゆくか
027:水(26〜50)
(香村かな) 美しく見える角度を知りながら笑む水仙のあわい傾き
(梅田啓子)生き急ぐもののごとくに水雪はわれの視界をたえまなく落つ
052:芯(1〜25)
(みずき) 菜の芯のレシピをどうぞ真つ白な春の器に檸檬を搾る
野州)生温い歌しかできぬ春の夜は鉛筆の芯尖らせいたり
(千束)この壁を壊せるものを探してたシャーペンの芯はすぐに折れるし
055:虚(1〜25)
(夏実麦太朗)むずかしい粘土細工に飽きたなら虚数の街にパン買いに行く
(紫苑)うつくしき虚像ならまし産毛なきビスクの頬を撫づるてのひら
(飯田彩乃) 帰らざる日々を思へば八月の日付は淡き虚数で記す
(オリーブ) 虚しさで満たす浴槽 君の名を持つ白き魚(うお)しずかに放つ
056:摘(1〜25)
(みずき)摘み草の指の感触やさしくて羽毛のやうな春光を浴ぶ
(横雲) 春の野に草摘み遊ぶ乙女らの髪に裳裾に風柔らかき
野州)日々に色を濃くして茂る葉を避けて梨の摘果は捗りゆくも
057:ライバル(1〜25)
(紫苑) アライバルのランプ点れば所在なきひつじの群れはゲートをくぐる
(みずき) 青春の日溜まり翳るライバルの髪の追憶 振り向けば春
(船坂圭之介) 三人のライバル在りき激しさの極みの恋も杳くなりたり
060:直(1〜25)
(みずき)乾きゐし舌の奥処に知る冬のひかり真直ぐに床へ伸びたる
(南野耕平) 真っ直ぐに僕のところに来たと言う月の光を両手で受ける
(畠山拓郎)直感を頼りにしつつ解いてゆく恋のパズルは紫陽花の色
(千束) 将来の夢とか思い浮かばずに真っ直ぐ歩き出せない三月