題詠100首選歌集(その15)

選歌集・その15


015:とりあえず(78〜103)
(五十嵐きよみ)動揺をごまかすためにとりあえず空咳をして言葉を探す
(砂乃) 春までは襟足寒き日が続く薄手のマフラーとりあえずする
(尾崎弘子)「とりあへず」と名付けたドキュメントフォルダに見ないでおいたメールがたまる
(湯山昌樹)とりあえずのビールに酔いて今日もまた快からざる酒の席となる
016:絹(76〜100)
(五十嵐きよみ)まち針のあふれる色に囲まれて絹針一本りんとして立つ
(湯山昌樹)絹を裂くごとき悲鳴の飛び交いて巨大地震の足音聞こゆ
019:層(56〜80)
(さくらこ) 降り積もる想いの層はジュラ紀から変わらず恋の化石抱いてる
ウクレレ) 会えなくて知らない間に出来ていた活断層にココロが揺れる
030:遅(27〜51)
(遠野アリス) 遅刻して息を切らせる君のこと見たくて今日も5分早く出る
(香村かな)いつだって少し遅れてやってくる幸せに似た春の足音
(梅田啓子)ひと呼吸遅くだされし速報にからだの揺れを確かめている
031:電(26〜50)
(香村かな)留守電で繰り返し聞く君の声ずっと消せないままの初恋
(津野) 光る朝に街路樹の影は地に堕ちて路面電車のレールは曲がる
(はこべ)寒くても雪にならないこんな夜は鳴なない電話石ころのごと
032:町(26〜50)
(千束) 「嘘をつく人ほど影が濃くなるよ」ささやきに足を止めた町角
(香村かな) 君が住む町までバスを乗り継いで遠くなってくモノクロの夏
(尾崎弘子)町になる前の地形図たどりつつ百年前の森を旅する
(砂乃) 町医者の門に明かりがともる頃やさしい雨が私を包む
058:帆(1〜25)
(夏実麦太朗)帆かけ舟のほさきへさきは入れかわりしまいにやっこの足となりぬる
(tafots)花びらの貼りつく坂をのぼる夜は帆布カバンが眠たく沈む
(みずき) 帆のゆくへ見えずたゆたふ春風へ心の涙そつと偲ばす
(オリーブ) 少年の白いTシャツ風はらみ帆船となる夏の自転車
064:おやつ(1〜25)
(紫苑) おやつばめ餌はこび来ぬおのが身の細るを知らぬ機械となりて
(横雲)のど赤きおやつばくらめ一夜(ひとよ)居し肌(はだへ)に紅き花びら残る
(飯田彩乃) たましいのおやつのようなわたあめをゆびでつついてひとなつがゆく
(三沢左右)恋人が信じられない夜ならばおやつの甘さだけを信じる
066:豚(1〜25)
(横雲)花陰に河豚提灯を灯しけり透けて涼しき相触るる宵
野州)ネクタイに豚カツソースの染みひとつほとけのざ咲く畦に躓く
(船坂圭之介) 亡き父へ豚児敬白”あと僅かお待ち下されお目見得の日を”
072:汚(1〜25)
(横雲) 花の雨しとど濡らせる宵なれば朽ちたる花の汚きを摘む
(まるちゃん2323) ギッシリと詰まったリュックの膨らみは君の希望と汚れた記憶
(飯田彩乃)汝が胸の汚泥を指で乱しては白眼の冷えてゆくを見ており
(オリーブ) 悪意なき手にやすやすと汚される透明な羽持つ少女たち