題詠100首選歌集(その16)

            選歌集・その16


004:まさか(157〜182)
(祢莉)まさかまた会えるだなんて思わずにいたから今日はジャージ着ている
(佐田やよい)ぼた雪がまさか四月の青空に君の行方を追うように降る
(牧童)一瞬に揺れる想いも凍てつきてまさかアネモネ造花の世界
006:困(130〜154)
(月原真幸) 困ったら誰かにつながってるはずの小指の先を握って隠す
007:耕(130〜154)
(新井蜜)真つ青な言葉の海を耕せばわたしは風に飛ばされ消える
(なぎ)君と来た休耕田に秋桜が咲き誇るのをひとり眺める
011:ゲーム(103〜127) 
(砂乃)リセットを押せないからこそ生命はゲームじゃないって友は呟く
(穂ノ木芽央) うららかに電子の音のふりそそぐゲームセンター常春めきて
(南雲流水)ペディキアの剥がれ具合で察知するゲームまもなく終わりを告げる
(花夢) シューティングゲームのような気軽さで言葉をひとつひとつ打ち消す
021:洗(51〜75)
(香澄知穂) 寝てる間に雨が洗った真っさらな空気に浮かぶ沈丁花の香
(コバライチ*キコ)「寒いからうがい手洗い忘れずに」母のメールの吾は幼くて
(水風抱月)洗い髪梳かせば黒き一条の悔恨絡め嗤う指先
(音波)塗り箸を給湯室でよく洗う午後のわたしを清める儀式
(夏樹かのこ)声上げて泣かぬ私のハンカチがごうんごうんと洗われている
022:でたらめ(51〜76)
(さくらこ) でたらめに並べて遊ぼう 思い出の町や仲間や愛の台詞を
(尾崎弘子)でたらめに立つ電波塔 敵を持ちドンキホーテは幸福だつた
(音波)くだらない話をしようでたらめな歌をうたおう陽が照っている
(青野ことり) いつかまた会えるだろうか紅い葉に あの日歩いたでたらめの地図
023:蜂(51〜75)
(さくらこ)最初から選ばれてなどいなかった 女王蜂にはなれない未来
(ほたる)ぬばたまの夜の蜂蜜くちびるにかすかに残し地下鉄に乗る
(原田 町)トーストに蜂蜜ぬりつつ災害のテレビ見ている遠くのわれは
033:奇跡(26〜50)
(おちゃこ) 奇跡など起きるはずなく淡々と過ごした未来(さき)にあなたがいたの
(千束) なにひとつ同じではないぼくたちが同じ顔して笑える奇跡
(峰月 京)同じ地に同じ時代に君が居て同じ空気を吸ってる奇跡
(いちこ) この愛を奇跡とすべく流れ星ひとつふたつと数えておりぬ
(行方祐美) ゆるやかな奇跡のなかに生きてをりあなたもわれもこの菜の花も
034:掃(26〜50)
(おちゃこ) 捨てる箱捨てない箱と君の箱こころの掃除遅々と進まず
(遠野アリス) 掃除機で一緒に吸ってしまおうか 部屋の汚れも過去の記憶も
(たえなかすず) 掃除機の音に紛れて信仰のごとく別れの理由を言いぬ
(はこべ) 落葉掃く音が空まですいこまれ秋の深さを伝えておりぬ
(砂乃) 掃除するふりしてみては夕暮れに染まった君の席に近づく
(梅田啓子) すじ雲の天女のころもに見ゆる日はゆうべの紅きはなびらを掃く
068:コットン(1〜26)
(浅草大将)働けど森の水車の休みなくことことコットン春まだ浅き
(tafots) 買い置きのコットン5箱香水にひたして猫の屍骸を覆う
(横雲) コットンの白く弾けし畑広し滴る汗に風の過ぎ行く
(みずき)コットンと止まる列車は櫻(はな)のなか吉野山(よしの)の春へ人あふれゆく
(こはぎ)コットンの服を纏って今日君に抱きしめられるため走る駅
野州) ゆるやかな起伏に沿いて暮れてゆくかつて栄えしコットンロード
(千束) あのひとに縋りつくよりコットンを涙でひたすことにした夜
(オリーブ) ひまわりの迷路逃げ込むコットンのシャツとポニーテールの笑顔
(船坂圭之介) 懐かしのオールドブラックジョー居る如く風清かなりコットンフィールド
(三沢左右)化粧水ひやりと含むコットンを充てる唇丸く膨らむ