題詠100首選歌集(その18)

投稿のペースが多少上がって来たようだ。震災の痛みは痛みとして、生活の平常のペースが多少回復して来たのかとも思う。

         選歌集・その18 


008:下手(130〜154) 
(新井蜜)下手なこと言へばあなたが怒るから信号はまだ赤でも渡る
(砂乃)少年は嘘をつくのが下手になり母に「嫌い」と繰り返し言う
(南雲流水) 口下手がひとつ卵を産み落とし運の悪さを温めている
(逢)生きるのが下手だったよね 手のひらで溶けてしまった雪のひとひら
012:堅(104〜128)
(るいぼす) 堅実に生きようとしてあきらめたレディースデーと平日ランチ
(村木美月)前髪もスカート丈も堅苦しい渡り廊下ではずむプリーツ
(花夢) 堅実な教師をすこし狂わせて泡立つ午後の進路相談
017:失(78〜102)
(梳田碧) 幾つかの語彙を失う添削に顔かたちよきわが一首あり
(湯山昌樹)大切なもの様々に失われ物音さえなし 震災の町
(きたぱらあさみ) 失ったよりも多くのやさしさを注いで甘いカフェ・オレになれ
018:準備(77〜101)
(梳田碧) 来るべき春の準備を不繊布のマスクあれこれ手にして迷う
(湯山昌樹)晴れの場に防災頭巾準備して卒業式が静かに始まる
(五十嵐きよみ) 生きるとは死にゆく準備 吹く風にあらがう木々の声を聞きおり
(るいぼす) 旅までの準備期間ははやぶさの往復切符を眺めて暮らす
024:謝(52〜77)
(砂乃)日替わりのニュースの中ではうつむきて大臣がまた謝罪をしてる
(髭彦)幹部らの薄き頭の映りゐる謝罪風景日々にうとまし
(夏樹かのこ) フラッシュに目を伏せ謝罪する人も一人の父親なのかもしれない
073:自然(1〜25)
(紫苑)秋立ちて黄葉(もみぢ)あやなる自然薯(じねんじょ)の葉裏に小さき零余子(むかご)いきづく
(横雲)艶やかに無為自然なる生き方を倣いたき日の花は散りけり
(南野耕平) 過去形で話し始める君が居て自然に僕も過去形になる
(みずき)移ろふは自然か恋か春愁へ見え隠れする月の儚さ
(船坂圭之介)自然治癒無きゆゑ一生透析の責苦に命委ぬる運命(さだめ)
074:刃(1〜25)
野州)六つ上の兄に譲られ隠し持つこぼれ刃の肥後守愛でる
(船坂圭之介)来たる日もまた来る夜も背筋に刃のごとく透析の意識あり
076:ツリー(1〜25)
(横雲) 建ち上がるスカイツリーの背景に富士を並べし川岸の春
(みずき)贈られしフラワーツリーの囁きを雪舞ふ玻璃へそぞろ飾りぬ
(南野耕平)育ちゆくスカイツリーの天辺に立てば未来が見えるでしょうか
077:狂(1〜25)
(紫苑) 狂ほしき嵐の去りて天井の白きを空のごとくに眺む
(みずき)狂ひたる季節へ花の乱れ咲き政変前夜の潮騒を聴く
(飯田彩乃) わたつみの軛(くびき)を捨てて浜に立てば狂へる母とすれ違ひたり
079:雑(1〜26)
(紫苑) 改札に君を送れば雑踏はたがひの生(しやう)を捲いて流るる
(まるちゃん2323)雑巾を絞る指先凍みつきも暦は弥生水温む朝
野州) 放課後の雑巾掛けに倦みはじめ僕らは隠れてたばこを吸った