自民党の姿勢(スペース・マガジン4月号)

 例によって、スペース・マガジンからの転載である。この原稿を送ったのは、大震災の起こる前の先月上旬だった。今になって読み直してみると、季節はずれのピンボケ作品のような気がしないでもない。同誌が刊行されているのは、震災の被害もかなりあった日立市だから、なおさらのことである。月刊誌の場合、どうしてもこのようなケースが出て来るのは止むを得ないことなのだろうか。
 遅ればせながら、同誌の5月号に、震災についての雑感を載せようかと思っている。


[愚想管見]   自民党の姿勢          西中眞二郎

 報道によれば、自民党は国旗・国歌の侮辱に対し罰則を設ける検討を進めているようだ。国旗に関しては、外国国旗に対する罰則とのバランスという論点を否定はしないが、「なぜいまさら」という気がしてならないし、国歌については外国国歌とのバランスという問題もなく、伝えられているような替え歌にまで罰則という考え方は到底容認できない。「強制はしない」という国旗国歌法制定の際の政府答弁にもかかわらず、事実上その強制が進められている現実にさらに拍車を掛ける動きには、恐怖さえ感じる。
 民主党政権の相も変らぬ迷走ぶりにはがっかりさせられるが、この問題に限らず、このところ政府・与党に対する自民党のスタンスに対する失望も大きい。菅政権の顔ぶれを見ると、いわば「優秀な係長」がいきなり「大臣や副大臣」になったようなもので、試走期間ということで温かい目で見ている積りだったがいっこうに成長の気配もなく、温かい目で見るゆとりも、いまやすっかり消えてしまった。そういった意味では、自民党に期待するところが大きいのだが、その自民党も、「責任野党」たる責務を放棄して、政権奪還のために、国会の内外を問わず、いたずらにヒステリックに叫んでいるように見えてならない。
 自民党の谷垣総裁の姿勢には、弾力的で真摯なものを感じていた時期もあったのだが、党内で「弱腰」との批判もあったようで、このところ攻勢の姿勢を強めているようだ。諄々と説得するのが谷垣さんの持ち味だったはずなのに、昨今は声高に叫ぶ言動が目に付く。たしかに自民党の目から見れば、現実性のないマニフェストを振りかざして政権を奪取した民主党、しかもかつての「ねじれ」の際、参議院における数の力を最大限に発揮して政府を窮地に追い込んだ民主党に対する反感が大きく、自民党当時とあまり変わらない政策になればなるほど、倒閣第一という気持になることが判らないではないが、長年政権を握って来た大人の政党として、しかもさまざまな問題が山積している現在、もう一味違う対応ができないものかという気がしてならない。
 民主党に対する対立軸として右寄りの姿勢を強めたところで、それによる支持層の拡大は極めてわずかなものであり、かえって各層の幅広い支持を失う結果になり兼ねない。少なくとも私に関する限り、右寄りの対決姿勢を強める自民党への回帰を素直に認める気にはなれない。いまこそ自民党は、政権担当能力を示し、広い層の支持を得られる「国民政党」として行動すべきなのに、これではその期待に逆行するのみである。
 政府与党の謙虚かつ柔軟な姿勢を期待するとともに、「責任野党」たる自民党においても、野党慣れしていないという点は大目に見るとしても、かつての政権党、そしてこれからも政権を指向している政党として、国政の混乱を避けるという配慮をもう少し働かせて欲しいものだと思う。これでは、野党当時の対決・倒閣一点張りだった民主党と変わるところのない「万年野党」体質の存在になってしまうのではないか。自民党のためにも、昨今の姿勢を惜しむものだ。(スペース・マガジン4月号所収)