題詠100首選歌集(その20)

         選歌集・その20


009:寒(135〜159)
(伊倉ほたる)暗闇を歩けば梅が手招いて寒い夜には月が明るい
(瀬波麻人) 寒桜散りゆくままにバスを待つ今日は誰とも話していない
(こゆり)見上げればあなたによく似た花が散る まだ肌寒いパン屋への道
(内田かおり) 寒椿狭庭に残る寂しさよ未だ落ち葉は朽ちおらぬまま
010:駆(130〜154)
(南雲流水) 「結局は自分が大事」と拗ねてみる駆け抜けてゆくもの達ばかり
(龍翔)草原を白馬で駆けてくるはずの王子はどこかで絡まっている
016:絹(101〜125)
(萱野芙蓉) 絹糸は指にたのしも繭のうちにありし蚕の果ては思はず
(空音)滑らかなあなたの指を欲しがって絹の下着を身につける宵
(小夜こなた)桜色の絹のストールなびかせて自粛ムードの春を闊歩す
(雑食) 絹鳴りを聞かせてくれたこの帯も柩に入れてお別れします
(逢)いっぽんの絹糸がいい(あかいろで小指に結んであるものがいい)
026:震(51〜75)
(青野ことり) かけひきのように往ったり来たりする 震える蕾弥生のおわり
027:水(51〜76)
(A.I) 泥田にも豊けき実り 日本には水を澄ませる昆虫がゐる
(原田 町) 米牛乳納豆無くてもまあまあと温水便座にゆったり座る
028:説(52〜76)
(A.I) 枕辺の説話集よりいくつかを読みきかせつつ我も眠らん
(牛 隆佑) 目に見える繋がり方が欲しくって宮沢賢治の小説を読む
(豆田 麦)手を重ね愛を説いてるまなざしがゆうべは誰を見てたか知ってる
(鈴麗) 貴方まで続く回路の仮説立て悩む私はアインシュタイン
(青野ことり)はじめからきみに説得されたくて黙ったままのたんぽぽ野原
038:抱(33〜58)
(峰月 京)漆黒の夜空に桜ひらり舞い 背(せな)から君にかき抱(いだ)かれり
(はこべ)道野辺のスタンドの店水仙が二百円なり抱えて帰える
(三沢左右)モノクロの写真の中で銃を抱く姿は遠く影を投げ出す
(足知)抱き合えばいつもピアスの片方が消えてあなたに流れ出す冬
(砂乃) 冴え返る春の夜道はふうわりと水仙の香にただ抱かれり
039:庭(28〜52)
(ほたる) 庭の隅に死んだ金魚を埋めたこと秘密にしている女の子がいた
(牧童) 海棠を見上げる庭の黒猫よ僕の痛みを半分あげる
040:伝(28〜52)
(たえなかすず)さよならを綺麗な姿勢で待ちをればストッキングの伝線ふたつ
(猫丘ひこ乃)「先に行くゴメン」と残す伝言板 待ちくたびれた昭和の駅で
(牛 隆佑)地球には風ってものがありたまに誰かの初夏を伝えたりする
042:至(26〜50)
(水風抱月)此の國に産まれ生き来し至福あり浴みす湯船に揺らる一時
(蜂田 聞)ニッポンの四季にある疵(きず)節々の痛む時節に夏至を迎える