題詠100首選歌集(その21)

選歌集・その21


001:初(202〜228)
(牧童)名も知らぬ花と初めて出会う朝瓦礫と化した国揺れやまず
今泉洋子) パソコンに貫之のうた探しつつ去年の初瀬の梅を恋ほしむ
陸王) 初期化プログラムは彼の手の中でリセットしてもわたしはわたし
(宮田ふゆこ) 初もののホタルイカの目ちぎりつつパスタの旬も春って決める
(瀬波麻人)初めての人の名前を口にするひとりぼっちの誓いみたいに
002:幸(185〜209)
(新野みどり) ガレットの焦げる香りが漂って静かな幸せ満ちるキッチン
(蜂田 聞)そこそこの幸せぞよしスーパーでヨンキュッパーの門松を買う
今泉洋子) 西行忌わが誕生日なる幸に花の下にて馬齢を重ぬ
003:細(185〜209)
(理阿弥) 延べられし汝が手底(たなそこ)の細波に顔うづめれば田芹の香り
(龍翔)細い目をさらに細めて笑いつつ、君は私を見透かしている
021:洗(76〜100)
(稲生あきら)洗いたてのような気分で歩き出す あの人にまた会えた春の日
(ちょろ玉)玄関をあければ君が出迎える洗ったばかりの髪の匂いで
ウクレレ)左回りちょっと止まって右回り洗濯機のごと恋をしている
(五十嵐きよみ)ジーンズの嵩の高さに腹を立てうなりを上げている洗濯機
075:朱(1〜25)
(紫苑) 西つ方朱華(はねず)の空を惜しみつつみぢかき春の日の暮れにけり
(横雲)白梅の散りかかりたる朱唇佛手合わす君に梅散りかかる
(こはぎ)朱の鳥居くぐり抜けてくくるぶしは夕焼けに染む 僕の初恋
野州)朱の橋を渡る少女を遮って両手を広げていた夏休み
(アンタレス) 凄まじき地震のテレビ揺れるなか南天の朱実春光に映ゆ
(保武池警部補)血の朱のくゆりて旅人(たびと)魂気(たまき)尽き また飛びたてり行くのかあの地
(はこべ)御朱印を受けんと並ぶ列なれど竹生島では白き衣を
078:卵(1〜25)
(紫苑)つと毀れ拡がりゆける卵黄にゆるき破戒のかなしみを見つ
(みずき) 卵抱く燕は駅舎の天井にけふも去年も四月を棲みぬ
080:結婚(1〜25)
(tafots)お互いの結婚式に呼べるほど仲良しのまま別れましょうか
(まるちゃん2323) 左手の結婚リング陽に映えて家路を急ぐ暮れなずむ駅
081:配(1〜25)
〈映子〉花魁の 花道のよう 香をのこし   病棟の中 配膳車ゆく
(tafots)義理チョコを配り終わった妹と薄い紅茶を飲んだ夕方
(横雲)喩ふれば人居ぬ島へ配流の身便り一つのこぬか雨降る
(南野耕平) 配られた地図を丸めてポケットにつっこんだのは遠い日のこと
(飯田彩乃)配られたカードを表に返すまで手渡されてる執行猶予
085:フルーツ(1〜25)
(紫苑)目に慣れぬフルーツに手を伸ばしつつ外つ国の香に酔ひ痴れし夜
(横雲) 舞ひ終えてフルーツカクテル手に笑みし眼下の夜景春雨に濡る
(みずき)フルーツを乱切りにして角ごとの秋を味はふ一人の夜は
(船坂圭之介)ひとり居の夜に漂ふフルーツの香にしばらくはひとり酔ひ居り
086:貴(1〜25)
(浅草大将) 山ふかみ冬は凍れる貴船川ほたる火燃ゆる夏もすずしき
(横雲)抱かれて燃えたる後の貴(あて)やかに染まりし肌に衣纏へり
(みずき)「貴(たふと)びて我は逝くなり憂国を」耳に残れるあの日、戦時下
(南野耕平)いただいた貴重な言葉があなたからでなかったならば素直に聞けた
(飯田彩乃)やんごとなき貴婦人の目をもつ犬が排泄を終え坂下りゆく
野州) いつもなら長なが続く晩酌を切り上げ貴方の愚痴を聞く夜
(千束) 木苺で指先染めた春も過ぎ見送るだけの貴女のうなじ