題詠100首選歌集(その22)

           選歌集・その22


011:ゲーム(128〜152)
(逢)リセットを押してあなたを忘れたい ゲームみたいに生きられるなら
(新野みどり)昔から椅子取りゲームに勝てなくて夜は静かにペディキュアを塗る
(佐田やよい)紫のハンカチを振るマスゲーム夕暮れの色が濃くなってゆく
(内田かおり) さくら花煽られしまま旋回す爛漫の夜のゲームは霞む
029:公式(51〜75)
(原田 町) 原子力安全性の公式はありやなしやとお浸し食べる
(さくらこ) 君だけを好きと誓った冬が過ぎ公式ルールに加筆する春
(コバライチ*キコ)千年に一度荒らぶる自然界公式通りまた春がくる
030:遅(52〜76)
(たろ)休日の贅沢な朝遅い朝 餓えた毛玉が 詰め寄り騒ぐ
(不動哲平) なにもかも遅れてきたということを忘れるために読む現代詩
(夏樹かのこ)1分の遅れを告げるJR夕暮れ空がもう青い春
(新田瑛)陽炎の中で遅発のバスを待つ いつか来る日を思い描いて
(小夜こなた)遅ればせながらのレベル7から光を閉ざす未来が透ける
(新井蜜) 遅かつた春が一昨日やつて来て今日また帰る山の向かうへ
083:溝(1〜25)
(みずき)溝越えて春の真中を翔けぬけんポンチョの煽るさよならの風
(葵の助) 夫との溝が言葉で埋まらない時はひとまず緑茶淹れましょ
084:総(1〜25)
(夏実麦太朗)さみどりの房総半島つまみあげ酒のさかなにしたる夜の更け
(横雲) 山間(やまあひ)に隠れ咲きたる総桜(ふさざくら)雪のひと塊(くれ)消え残したり
(千束)目に映る総てに嫉妬を覚えてた 隣で揺れるブランコにさえ
(保武池警部補) 知れらぬ地に総帥残し猛り去り けだしこの椅子嘘に血塗られし
087:閉(1〜25)
(横雲)晩き朝けだるき春の雨降れば閉ざせる庭に苔匂ひ立つ
(みずき)春閉づる扉もノブも吾が心 指紋をつけぬ朝がまた来る
(南野耕平) それぞれが自分の窓を閉じてゆくときに言葉はあまりに無力
(まるちゃん2323) 水色の空に二十歳の君がいる「大事にしよう」閉じゆく朝に
(船坂圭之介) 紫のかすりの薫り蒸たしめて眼前の乙女つと窓を閉づ
(アンタレス) 格子無き牢獄なりやわが日々はドア閉ざされぬ歩けず籠る
088:湧(1〜25)
(こはぎ) 温めたカップ手のひらに包みこみ一人静かに湧く恋を噛む
(千束)もう二度と振り返らないと呟けばうすくらやみに湧きいずる水
090:そもそも(1〜26)
(南野耕平) そもそもと言い出したので結論は出せないものと諦めました
(みずき) そもそもと言ひて黙(もだ)せる師の癖を挿むページを閉ぢて春なる
092:念(1〜25)
野州) 寄る猫の姿まばらに宵の寒念じて生える頭髪もなく
(千束) 宛名だけ書いた便箋積み重ね愚かな僕の記念碑とする
(オリーブ)うたたねを共にしたのも記念日のひとつと数えむ春の休日
番外の歌:(1〜32)
(梅田啓子)〈あの日〉という記憶が人に陸・海に刻まれそして朝が始まる
(みずき) 黒づみし海に盛らるる断片を鏡の如く春は照らせり
(みずき) 惨き日日春へとつづく岡に佇ち咲かぬ櫻と海鳴りを聴く
佐藤紀子)「何に一番困つているか」と訊ねられ口ごもりたり被災地の人
(映子) じしんとか ほうしゃのうとか つなみとか   音 遠ざけて うす目で見てる
(みずき)壊れゐし街へのたりと春の海 過ぐる季節へ櫻(はな)が咲いてる