題詠100首選歌集(その23)

        選歌集・その23


005:姿(163〜187)
(佐田やよい)地下鉄の窓に四月の違和感が私のような姿で映る
(おおみはじめ) 葱坊主揺れる姿を見せるため猫を散歩に連れてゆきたい
007:耕(155〜179)
(壬生キヨム) 耕された土のにおいがする男 平成生まれの新人が来る
(佐田やよい) 春の日の休耕田で笑いあう役にたたない案山子になって
佐藤紀子) 耕せば野兎の来てまた荒らす おいかけつこの家庭菜園
022:でたらめ(77〜103)
(ちょろ玉)神様が創ったこの世のでたらめを君と探してゆくような日々
(香-キョウ-) 「人間はでたらめばかり」  塀の上 薄ら目の猫 そう言いたげで
(南雲流水)でたらめな振る舞いが頬に心地よい身勝手に吹くこの街の風
023:蜂(76〜101)
(蜂田 聞) かの地なる伯母より届く「ざざ虫」と「イナゴ」「蜂の子」「蚕のさなぎ」
(萱野芙蓉)五月われは針もたぬ蜂とろとろとぬるむ緑のあひをただよふ
091:債(1〜25)
野州) 寝る前のドリップ珈琲飲みながらアマゾンサイトに負債をつくる
093:迫(1〜25)
(南野耕平) 確かなる足取りを持ち迫りくる老いの季節に言うこんにちは
野州)町川に迫り出すように建ちながら昭和のカフェは古びてゆくも
(保武池警部補)瞳潤ませし乙女の吐息憂き 糸の目遠し迫る海と日
(たえなかすず)江ノ電はいつまで海に続くのか迫る熱砂の粒をそろえて
094:裂(1〜25)
(みずき)地の裂けて死の街と化す阪神の過去へ揺れゐる陽炎のあり
(千束)張り裂けた心臓だから触れないで きっとそこから桃が咲くから
(オリーブ) 指絡め視線を交わす雨の下 いまひっそりと柘榴が裂ける
095:遠慮(1〜25)
(みずき)遠慮しつ始めて継母(はは)に抱かれたる五歳の冬のとほき潮騒
(船坂圭之介) 足は萎え眼は霞みたる此の春は遠慮申さむ花見の宴(うたげ)
097:毎(1〜26)
(南野耕平)駅までの道が毎日あることを恨むでもなく月曜の朝
(こはぎ)新しい今日が始まるたび君に初恋をする毎朝の駅
(船坂圭之介) 夜毎夜毎夢に顕つ(たつ)影遠くして亡妻(つま)かあらずかわが迷ひ居り
099:惑(1〜25)
(紫苑)未だ視えぬ「詠ふこころ」に惑う吾の闇にやさしきリルケの手紙
(横雲)道ならぬ恋の終はりて静かなり道に惑ひし日々遥かなり
(三沢左右)ウイスキーロックとZEPのLPに幻惑されて夜は朝となる
(アンタレス)病気をば隠れ蓑とし惑いつつ非力の日々かわが暗き春
(おちゃこ)ピッタリと嵌るピースが見つからず惑い続ける恋愛パズル