題詠100首選歌集(その24)

ゴールデンウィークも後半に入った。毎日が日曜日の身にとっては連休の希少価値も小さいが、今年は例年にも増して、いまひとつ実感が湧かない。やはり大震災の後遺症なのだろうか・・・。
 このところ新聞歌壇を読むと、ほとんどが大震災をテーマにしたものばかりだ。その点、題詠100首の場合は、震災ものは比較的少ない。ちょっとホッとする気がしないでもない。

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して7年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


選歌集・その24


004:まさか(183〜207)
(蜂田 聞) 「まさか」から「もしかすると」に移りゆく 宮城の叔父と連絡がつかぬ
今泉洋子) 大地震(おほなゐ)のあの日を隔て日の本に「まさか」が溢れ三月去りぬ
006:困(155〜179)
(みゅーたん)あまりにも突然すぎてあのときは困った顔をするしかなかった
(龍翔)もし君がいなくなっても困らないように紅茶は僕がしまおう
(佐田やよい) 困惑は伝言板がなくなった春の駅から続いています
(廣田)困惑をマグに溶かして飲み干した朝の憂鬱シンクに流す
(鳥羽省三) 困惑の挙句に添ひし我らなる出逢ひし土地は新宿二丁目
012:堅(129〜153)
(龍翔) 「堅実に歩んでゆく」ということの 何と素敵でつまらないこと
(新野みどり)君の手を堅く握れば海だって越えていけると思った深夜
(佐田やよい) なくしものは見つからなくて冬の夜の空気の堅さ確かめている
017:失(103〜128)
(逢) 失ってしまわないようにはじめから手に入れることを諦めている
(雑食) 失ったピアスを探すふりをしてあなたの髪に触れてみた朝
018:準備(102〜126)
(小夜こなた) 準備した君への愛が枯渇して月の光がとても眩しい
(村木美月) 思いきり泣く準備ならできていて君の鎖骨のくぼみが恋しい
(紗都子)旅立ちの準備もせずに君は行くまだ見ぬ春に焦がれるように
(雑食)お別れを告げる準備はあなたからもらった紅を引けば整う
(藍鼠)さよならの準備を徐々にととのえて君との日々をたいせつにする
024:謝(78〜102)
(瀬波麻人)結局は謝るんだねそうやってみんな私の前から消える
(小夜こなた)健やかな新陳代謝に促され人類もやがてしゅわっと消える
(五十嵐きよみ)穏かに目覚めたというそれだけに感謝を捧げたい朝がある
025:ミステリー(77〜101)
(萱野芙蓉) ミステリーの冒頭にはや殺さるるをんな羨しも眠れぬ春は
(小夜こなた) ミステリーゾーンが欠けてゆくような君と結婚13年目
(五十嵐きよみ)ミステリー小説ならば最後にはすべて疑問が解かれるものを
031:電(51〜75)
(原田 町) 停電無しのニュースを聞けば街へ出て明るい色のスカーフを買う
(音波)どの街も祈りの時間朝方は静かに眠る電灯の群れ
(うたのはこ)留守電のあの人の声消せぬまま白いヴェールをまとう六月
043:寿(26〜50)
(ほたる)がんばった日は発泡酒ではなくて恵比寿ビールの神様に逢う
(天鈿女聖)「寿」の文字がだんだん丸くなり命も一つ授かりました
(いちこ)冷静な別れ話の延長に値段表記のなき寿司を食む
089:成(1〜25)
(紫苑) 鶴首を一気呵成に引き上げし織部のあをはあたりをはらふ
(みずき) 十八の春の成績額にして幾夜ひさしき春の憂鬱
野州)横町の坂を下ればオデオン座おおかた成人映画掛けいし