題詠100首選歌集(その26)

         選歌集・その26


008:下手(155〜179)
(佐田やよい) 口下手な鸚鵡になろう錆びついたジャングルジムを鳥籠にして
(内田かおり) 向かい風に空を見上げて躓けば下手な歩みの言い訳いくつ
019:層(107〜131)
(村木美月) 残されるものだけが知るかなしみが化石になって地層に眠る
(伊倉ほたる)指に残る背骨をなぞる感触がリアルな夢の深層心理
(おおみはじめ)成層圏行きのきっぷを買う人を対流圏で見送っている
026:震(76〜100)
(瀬波麻人)地震から一か月経つそれぞれの一か月間それぞれの今日
ウクレレ) 震災の過去と未来に挟まれて空と大地の間に生きる
(龍翔)雨の中震える猫を抱き寄せる ひとりぼっちは私も同じ
(壬生キヨム) 告白が昔話になってきて震える声で語る思い出
027:水(77〜101)
(小夜こなた) 水色の恋をしてから飴色の愛になるまで月を見ていた
(じゃみぃ)今週もノー残業デーの水曜日一人事務所で戸締まりをする
(湯山昌樹)品薄のペットボトルの水見れば採取地にわが町の名のあり
028:説(77〜101)
(うたのはこ)小説のような恋愛がしたいのと言われてありったけの薔薇を買う
(香-キョウ-)もしキミに取り扱いの説明書あったらきっとつまらない日々
(おおみはじめ)小説を微分したのが短歌ですそういうふうに思っています
ウクレレ)説明書なき春の夜のおぼろげな記憶に糸が黄色く染まる
(五十嵐きよみ) 正確な数字を連ねられるより笑顔ひとつに説得される
034:掃(51〜76)
(コバライチ*キコ)境内を掃く雲水の姿勢よく己が道筋見つめるごとし
(ちょろ玉)掃除機に戻るコードが何となく君の吸い込むうどんとかぶる
(夏樹かのこ) 無意識の澱を掃きだす落涙夢(らくるいむ)悲しみさえもカラーで描く
035:罪(51〜75)
(新田瑛)愛と罪は並べて等価であるという人に差し出すブラッディマリー
(夏樹かのこ) 罪悪感知った大人の舌だからピーマンだって好きだよ、割と
(かきくえば) 結局は泣くに至らぬ味のないチューインガムのような罪悪
047:態(27〜51)
(はこべ)災害の事態改善すこしありアナの服装グレーにかわる
(原田 町)原発のニュースよりも「白熊の生態」見んとチャンネル替える
(新田瑛) この想いが化学反応せぬように低温低圧状態におく
049:方法(28〜52)
(三沢左右)逃げ失せし猫を見つくる方法のありや死角の多き町並み
(猫丘ひこ乃)眠りいる吾を気遣う方法をいつの間に知る小声の猫よ
(砂乃)空に虹繋げ止めおく方法は見つからないからただ空を見る
050:酒(27〜51)
(保武池警部補) 消さむとも火を灯ぼすかなバッカスが唾流すほど追ひ求む酒
(草間環) ヴァッカスは芳醇な酒に酔い眠り我は孤独を受け取らんとす
(行方祐美)酒精綿のにほひに始まる毎朝が幸せと知る地震の後より
(ほたる)ぶどう酒の緑の空き瓶テーブルに昨夜(ゆうべ)の二人を閉じ込めている
(原田 町)一杯の梅酒にて足るきみゆえに夕餉の膳は早くかたづく