題詠100首選歌集(その31)

                選歌集・その31


004:まさか(208〜232)
(冬鳥)たまさかに流れつくべきいずれかの岸あり 遠い遠い朝焼け
012:堅(154〜180)
(内田かおり) 陽を受けて仄かに温き土くれのひとつところにある堅さあり
(ワンコ山田) 頑なに会わないわけを叩きこむ(堅物だね)と抗う胸に
(美亜)たいせつに堅く交わした約束が捨てられるように散る白木蓮
(黒崎聡美)中指の爪で堅さを確かめるパイプベッドのパイプの部分
018:準備(127〜153)
(佐田やよい) 手のひらの雪を溶かしてゆくように終わりの準備を君は始める
(逢) 冷えているアクエリアスを飲みほして涙をつくる準備はできた
(史緒)あれこれと口出す母性 明日よりの修学旅行の準備する娘(こ)に
(こすぎ)段々と葬儀の準備がうまくなる 毎年二回も喪服をまとう
(佐藤 紀子)入院の準備整へ夜を明かす 陣痛間隔せまくなる娘と
025:ミステリー(102〜126)
(藍鼠)後味の悪い別れを演出すミステリーさえにくむこの頃
(紗都子) ミステリーを読めばメトロは密室の空気にかわる金曜の午後
(村木美月)ミステリー小説そっととじている夢中になれない夜にはぐれる
(佐田やよい)ミステリートレイン揺らぎ告白は座席周りに散らばっている
(miki)一日中メガネはカギは探しもの ミニミステリーあふれる我が家
043:寿(51〜75)
(コバライチ*キコ)その背にも自営の矜持示しいる口下手の父の喜寿を寿ぐ
(miki)卒寿越え白寿を目指し悠然と 母の生き様眩しくもあり
061:有無(26〜50)
(はこべ) 意思の有無確かめたくて覗きみるきみのこころをはかりかねおり
(吾妻誠一)物件の占有無きも調べずに鼓動高める競売の朝
062:墓(26〜50)
(香村かな)刻まれた墓石の文字をみつめては届かぬ指をそらへとのばす
(吾妻誠一) 今は無き生家の跡のロータリー 金魚の墓に花を散撒く
(ほたる)水曜日二十三時のホームには墓石のように立つ人ばかり
(梅田啓子)悠久の墓となるのか地図になき海に眠れるオサマ・ビンラディン
(草間環)墓守が俯いていた夕暮れの空に飛び立つ巣に帰る鳥
064:おやつ(26〜50)
(梅田啓子) 空(くう)を截りおやつばめ一羽飛びゆけり奇跡のようにまた夏がくる
(猫丘ひこ乃)くぐもった声に聴こえた君のためハチミツ入りのおやつを焼こう
(只野ハル)老人は子供に戻り昼食後おやつの時間をただ待っている
065:羽(26〜50)
(はこべ)地謡の横顔そめる夕陽もえ能『羽衣』は袖返すなり
(香村かな) 青空を味方につけて羽ばたけば孤独も遠い景色のひとつ
066:豚(26〜50)
(ほたる)豚肉の生姜焼きの味付けでちょっともめてた頃の幸せ
(梅田啓子) 白鳥座見あげてひかる海豚座は羽ばたきの風つねに受けいる