題詠100首選歌集(その34)

         選歌集・その34

021:洗(126〜150)
(本間紫織) 楽あれば苦あり私の人生は洗濯板のでこぼこ加減
(理阿弥)アユタヤに象を洗ひてをりといふメール来たりて夏至の静けさ
(黒崎聡美)吹く風に緑は増してベランダの洗濯物の白は極まる
028:説(102〜126)
(伊倉ほたる) 保証書も説明書もない契約はむすんでひらいてくちゃくちゃにして
(琥珀)砂の上 熱き太陽照りつけて 説き伏せられて 頷いた夏
029:公式(101〜125)
(こすぎ) 公式が解けないままに今日になり過去が足元ほんわり照らす
(紗都子) 公式は忘れたけれど黒板に響くチョークの音はやさしい
(ワンコ山田) 「解なし」にふと眼を逸らす(運命の)公式集には雨のらくがき
(我妻俊樹)きみをまだおぼえていない夏がくる公式戦のスタンドの虹
047:態(52〜77)
(コバライチ*キコ)総身で反抗なせる態度みせ幼の背は鎧のごとし
(湯山昌樹) いつまでも打ち明けることができぬまま今度の恋もまた受動態
(酒井景二朗) 感動と態とらしさを履き違へ黒く黴びゆく私の日記
(不動哲平)サンダルによごれた爪を隠しつつ猫の媚態にふりむく真昼
048:束(51〜75)
(芳立)かき抱けばジャスミンの香の束ね髪ゆふひもとけて樹々のさやげる
(牛 隆佑) 一人きり佇む 夜は暗いという約束事に救われている
050:酒(52〜76)
(砂乃) ひとふりの酒で酔わせて口ひらくアサリを殺して私は食べる
(コバライチ*キコ) 酒蔵の歴史を背負い二百年いまはショコラの売られるところ
(おおみはじめ) ハバネラのたゆたう午後のけだるさのアルハンブラの葡萄酒の門
(芳立) 葡萄(えび)の酒にいまは酔ひなむあす往かば砂の屍となりぬべき身は
(小夜こなた)酒とバラバラな時間も二人には必要なのかも知れず、真夏日
(髭彦)酒酌めば話尽きざるふるさとを核に追はれし幼馴染と
(酒井景二朗) 祭禮の行燈のもと腰を据ゑこの名に恥ぢぬ酒飮みになる
069:箸(26〜50)
(行方祐美)昔ぱなしに一つの区切れを入るるやう味噌鯖とどく三尺三寸箸で
(葵の助)逆上がり突然出来た日のようにお箸が正しく持てた時「あれっ!?」
(ほたる)毎日の食卓に花の箸置をきちんと並べる日常の安堵
(新井蜜) 悔やまれること思ひだし箸を置く時報の後のニュース聞きつつ
070:介(26〜50)
(足知)遠くだけ見て生きてると知り合いを介して聞いたあなたのその後
071:謡(26〜50)
(はこべ) 謡曲がいつも聞こえたお隣の今は聞こえぬ冬がさびしい
(葵の助) 童謡を口ずさみつつ大根を煮る我の背で子が寝息立つ
(梅田啓子)裃をつけて素謡するごとく紫紺あやめの列なりて咲く
(原田 町)童謡も戦時の色にそめられて「めんこい仔馬」軍馬となりぬ
074:刃(26〜50)
(津野) さよならを迷う気配に刃をあててタテヨコナナメに切り裂いて雨
(吾妻誠一) シェーバーの型番のメモ取り出して替刃を探す閉店間際
(只野ハル) 切り結ぶ刃の音の澄みわたり途絶える間際鈍き音する