題詠100首選歌集(その35)

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して7年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。
主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。

            

 選歌集・その35


002:幸(235〜259)
ひぐらしひなつ)膝についた砂を払えば幸福の遠景として立つ無人
003:細(227〜251)
(冬鳥)そのひとは不在のままにそのひとを語れる夜の灯の細りゆき
ひぐらしひなつ)筆ペンの細い方から駄目にするあなたの癖字すこし掠れて
007:耕(205〜230)
(希) 蝶々と道を競って耕運機ふるさとはゆっくり春になる
今泉洋子)晴耕と雨読のあはひたましひを洗濯したき曇天がある
017:失(154〜178)
(希) 靴下の片方だけを見失うように小さな夢をなくした
佐藤紀子) 失恋もうすむらさきの想ひ出となりて彩る老いの日頃を
(美亜)あのひとのくれた喪失抱きながら生きるしかない 桜が、散るよ
(詩月めぐ) 好きすぎて囚われすぎて見失う貴方の心探す雨の夜
030:遅(102〜126)
(穂ノ木芽央)遅くても良いから返事をくれと云ふ今日はケーキを買つて帰らう
(紗都子) 遅くとも明日には着いているだろう海辺のポストのかたちを思う
(本間紫織) 遅れてく僕を許して 二人分付けた線香花火が燃える
036:暑(84〜109)
(のわ) 友達と避暑地へ出かける君を見た駅横の道カンナが続く
(五十嵐きよみ) 暑がりの姉、寒がりの妹の会話はたまにちぐはぐになる
ウクレレ猛暑日の夜にぼくらは抱き合って輪郭さえも曖昧になる
(A.I) ちさちゃんの下の子の名をおととしの暑中見舞いの束から探す
(東雲の月) 涼しげな白一線に引き波の輝く暑さ夏を嬉しむ
(紗都子) きみからの暑中見舞いはもう来ない金魚鉢には空気がよどむ
(伊倉ほたる)ねじくれたミミズ平らにはりついてプール帰りの歪んだ暑さ
037:ポーズ(83〜107)
(五十嵐きよみ)ドガの絵に少女は踊る白鳥が羽ばたくさまを模したポーズで
(香澄知穂)ポーズ取り君を誘惑する夜に月の周りを囲む虹の輪
(A.I) スマブラのポーズボタンを押したまま喧嘩別れをした夏休み
(湯山昌樹) 打ち合いを制してスマッシュ決めた子は小さくこぶしを上げるポーズす
(紗都子) 三日月のポーズで高く伸びゆけば真夏の空にふれるゆびさき
(晴流奏)思い出を捨て去る事も出来なくて消せぬ写真のおどけたポーズ
039:庭(78〜102)
(湯山昌樹) 校庭が狭くなりたる心地する一年生の入部の季節
ウクレレ) 抱き合った日々の記憶の木漏れ日の庭でしずかに揺れるブランコ
049:方法(53〜77)
(新井蜜)方法論しずかに我に説く君の早世のわが父に似る額
(夏樹かのこ)ハッピーエンドにする方法など知らなくて明日の服を決めかねている
073:自然(26〜50)
(足知)あなたから自然に吹いてくる風にゆっくり背中押されて歩く
(廣田) 少女らの自然に漏らすため息が開くページの中原中也