題詠100首選歌集(その38)

選歌集・その38

001:初(255〜279)
(御崎 耕)初めての街、ひと、言葉、あぁ誰も僕を知らない自由から、いま
ひぐらしひなつ) 六月。初潮を知らぬ少女らの泥にまみれた素足を拭う
(秋月あまね)誦しやまぬ歌の姿にあくがれて初夏はいつでもはつなつと書く
(村上 喬) 初夏の風に吹かれる向日葵の向こうの海に白波の立つ
(とん)初めての朝はどうしていつの日も果てなく青い空なのだろう
008:下手(206〜230)
(冬鳥) びしょびしょの雑巾でふく旧校舎 いつだってなにもかも下手だった
(いととんぼ) ふと聞こゆ 母の針箱開けるたび 下手の長糸 上手の小糸
ひぐらしひなつ) 口下手なひとの背中も天窓も暮れてさくらの季節が終わる
(葉月きらら)一人でも生きていけると下手な嘘ついて大人になったあの夏
019:層(157〜182)
(櫻井ひなた)『今日』がまた層になっていくんだろう『今は昔』といつか笑える
(黒崎聡美) ひとすじの煙は昇りこの空の層は厚みを増して広がる
(詩月めぐ)幾層も重ね積もった「大好き」を海に沈める さようなら過去
026:震(127〜151)
(七十路ばばの独り言)水面に拡がる油燃えさかり地震の後の修羅の夜更けゆく
(希)『震』という一文字くしくも百題に選ばれており二〇一一
(理阿弥)水面にて羽震わせる蛾を深く沈める指に波動さみしい
032:町(104〜128)
(東雲の月) がちゃがちゃと食器の音立つ黄昏の町並みの先我が家はある
(佐田やよい) 永遠にまわりつづけるこの町の回覧板に祈りをはさむ
(晴流奏) 草いきれ茹でたとうきび夏祭り僕の小さな町に来た夏
(烏野サギ子)行く先のない未来ならそれも好い ふと猫町に迷い込みたい
(村木美月) この町はいつでも私に優しくてマクドナルドも24時間
(中村成志)向町西町分けし路地端にヒメツルソバのうすきひろごり
033:奇跡(102〜126)
(本間紫織) 七枚の花びらちぎり奇跡とか運命だとかを祈る半月
053:なう(52〜76)
(miki)稲の波いざなう中に白鷺の そぼ降る雨に群れてたわむる
054:丼(51〜76)
(青野ことり)丼を重ねて仕舞う食器棚洗ったばかりのふたつを上に
(ひじり純子)丼という字に我を顧みる井の中の蛙まるで「丼」
055:虚(51〜75)
(コバライチ*キコ) 虚栄心もつゆえ人はよろけずに立ちているなり泣きたき日にも
ミウラウミ)数学の教師いきおいよくチョークふりさあ虚数へのアーチを描く
056:摘(51〜75)
(コバライチ*キコ) 朝顔の一輪残して摘み果たす利休の庭に一陣の風
(酒井景二朗) この憂ひ摘出せむと酒を酌む酒は濁りのあるもまた佳し