題詠100首選歌集(その39)

選歌集・その39


012:堅(181〜205)
(櫻井ひなた) 今までで一番堅苦しい顔で父はつぶやく「…幸せに、なれ」
020:幻(155〜179)
(黒崎聡美)一年をたしかに過ごしたはずなのに幻のように咲く沈丁花
(志歩)17の孤独の味が沈んでる今は幻カルピスの底
034:掃(102〜126)
(紗都子) 薄雲を一掃させて青深く磨きあげたら梅雨明けになる
(晴流奏)名も知らぬ君を迎える為にする掃除の後の部屋の静寂
(我妻俊樹) 日なたから影をこすって消してゆく夏の掃除夫たちは黙って
飫肥正)隔週の缶の回収忘れゐて清掃車去る音に目覚めり
043:寿(76〜100)
(南葦太) 待つことに疲れ果てたと諦めて切れたリチウム電池の寿命
(香澄知穂)大切な小さきものの背をなでて福寿を願う夜の静けさ
057:ライバル(51〜75)
(やまみん)ライバルというほど尊きものでなく 女の敵はいつでも女
(miki) ライバルと呼ばれて嬉し若き日の友は 黙して遙かなる空
(青野ことり)電灯がひとつ消された店内にニューアライバルのポップ明るい
(不動哲平) ライバルのつもりでいたと告白す さん付けで呼ぶかつての友に
058:帆(51〜76)
(新井蜜) 帆柱に攀じ登り見る青空と海とのあはひ、島影の見ゆ
(夏樹かのこ) 帆に風を受けてはためく白いシャツ夏はいつでも永遠色(とわいろ)だった
059:騒(51〜75)
(原田 町) 首相また降ろす騒ぎや六月の空ほしいままホトトギス鳴く
(青野ことり) 喧騒を遠くとおくに置いてきた ここはだあれも知らない木陰
(牛 隆佑)真夜中の自動車とばす国道の音 ぼくだけの潮騒として
(不動哲平)騒がしい夜の一部であるはずのわれに微笑む老娼ひとり
060:直(51〜75)
(原田 町)菅直人ついに辞めるか宰相の器にあらずの声姦しく
(青野ことり) 点と点結んで引いた直線を見えないふりで遠まわりする
(牛 隆佑)ああそれなら真っ直ぐ行ったその先を右に曲がれば青空ですよ
081:配(26〜50)
(廣田)ファインダー覗く世界の配色は海の記憶のインディゴ・ブルー
(梅田啓子) いつまでも眠りのツボが捉めないバイクの気配に寝返りをうつ
(新田瑛)図書館のドアを通して吹きぬける風に漂う宇宙の気配
(ほたる)朝までに君の気配を消したくて傘をささずに真っ直ぐ歩く
082:万(26〜50)
(行方祐美) 万愚節のしづかに過ぎつたれからも嘘をつかるることさへもなく
(豆田 麦)幾千も幾万も降る花びらをつかみそこねてまた過ぎる春
(廣田) 万物の創造終えた日曜の夜は無意味に花火を鳴らす
(コバライチ*キコ)さりげなくかわす会話が密になり万年青はびっしり赤き実つける