題詠100首選歌集(その40)

 8月も半ばを過ぎた。例年8月には、戦争記憶をはじめとする特別の感慨があるのだが、今年はなぜかその感慨が薄い。年齢とともに感受性が鈍感になったのか、それとも大震災という、より身近な惨事があったため、感覚のポイントがこれまでとずれてしまったのか。
 今年も暑い日が続く。とりあえず電力需給がこの夏を乗り越えられることを祈念するところだ。


             選歌集・その40


005:姿(213〜237)
ひぐらしひなつ)姿見が夏の翳りをうつす日は白き木綿を肌にあわせる
今泉洋子) 人間の姿がやをら猿になる猿の軍団見し後の街
014:残(179〜203)
(星桔梗)沁みこんだ欠片がいつも残像となり蘇る故郷の朝
(桑原憂太郎)平成に生まれし生徒は給食の2分の1のバナナを残す
015:とりあえず(179〜203)
(千葉けい) とりあえず氷ひとかけ口にして心とともに麻痺させている
(新藤ゆゆ)とりあえず満ち足りている晴れの日の洗濯物のしろいゆび先
松木秀) とりあえず今日も生きてたそれだけを幸いとして本日も寝る
027:水(127〜151)
(晴流奏) 雨傘を滴る水の冷たさよ『また会いたい』は贅沢ですか?
035:罪(101〜125)
(紗都子)罪ひとつ重ねた夏だうつくしくやさしいものを水にしずめて
(琥珀) 砂浜を二人で走る秋の日の 振り向く笑顔 君罪つくり
(晴流奏)真っ直ぐな君の視線は罪作り僕の本音も知らない癖に
044:護(76〜100)
(不動哲平)夜の坂キャットフードを抱えゆく女人をわれの守護天使とす
(五十嵐きよみ) 自己弁護ばかりしている舌先にねっとりとした果実の甘さ
046:奏(77〜101)
(紗都子) 夜の音を奏でる風のゆびさきが頬にふれたら涙にかわる
061:有無(51〜75)
(夏樹かのこ) Yの有無ただそれだけでやわらかい吾のからだに実る花房
083:溝(26〜50)
(足知)ゆっくりのあなたの言葉。側溝を流れていった桜はなびら
(廣田)海溝にしずむひとりの教室でコールタールの比重を量る
ミウラウミ)中庭の側溝ふさぐ金網がひとつだけ外れたままのくらやみ
(原田 町) わが家より排水溝へ落ちてゆく水の果てかも川の澱みは
084:総(26〜50)
(水風抱月)君が背の残り香めいて寄る風を総身へ受けて埠頭へ立てり
(新田瑛) 自分だけを信じて生きてきた人は総じて耳に毛が生えている