題詠100首選歌集(その41)

          選歌集・その41

013:故(178〜202)
(風とくらげ)故郷を捨てるんじゃなく捨てざるをえない流れてちぎれる雲よ
飫肥正)誤字脱字やかましく云ふ上役の故事のあやまりたださずに聞く
(村上 喬) 故郷に山河はありやと尋ねしも張り子の牛は首ふるばかり
036:暑(110〜134)
(晴流奏) 伝わらぬ気持ち抱える苛立ちを夏の暑さのせいにしている
(さくらこ) 会いたくて死にそう、なんて書けないし「暑中お見舞い申し上げます」
(七十路ばばの独り言)扇風機よしずすだれを懐かしむ原発が病む暑熱の夏に
(中村成志)昼つかた蟻には蟻の蔭おちて暑中お見舞い申し上げます
飫肥正) 暑さゆゑ地下街歩みゆくほどにメイド服着し人に出会へり
(田中彼方)とろとろと猫がとろける塀のうえ。残暑お見舞い申し上げます。
045:幼稚(79〜103)
(五十嵐きよみ)対等に親と話せぬもどかしさいつも幼稚な物言いになる
(穂ノ木芽央)幼稚園バスのトーマスさみしげに最後の子どもを降ろしゆく春
(suzu) 夕焼けが遊びし子らの影つくり数珠玉草のある幼稚園
047:態(78〜102)
(東雲の月) 酔った目の嬌態左に抱き寄せて鈍き指輪の閃きを知る
(五十嵐きよみ)見るほどに媚態のようで飾られた百合の向きだけそっと動かす
(紗都子)擬態する生きものたちは色をかえ古い記憶を切り捨ててゆく
(理宇) 何となく事態は軽くないようだホットココアは甘めにしよう
048:束(76〜101)
(うたのはこ)右腕のほの紅い跡は束の間の逢瀬の名残り雨は止まない
(穂ノ木芽央)用済みの束見本そのまんなかに筆跡美(は)しくしるす呪(まじな)ひ
049:方法(76〜101)
(ちょろ玉)「穏便に別れる方法その1」が知らない人から届く真夜中
(紗都子) いくつもの方法がある選ぶまで未来は扇のかたちにひらく
062:墓(51〜75)
(夏樹かのこ)墓に来て両手を合わせ眼を閉じて今年の蝉と現を生きる
(青野ことり) まだ若い人だったのか真夏日の墓前にポテトチップスひとつ
(不動哲平)墓石を背に缶ビール呑み干せば見て見ぬふりを決めこむカラス
066:豚(51〜75)
(コバライチ*キコ)福禄寿豚の頭の並びいてランタン祭りの夜の賑わひ
(新井蜜)隣席の離別の話、豚肉の冷しゃぶサラダ食べながら聞く
(晴流奏)雑貨屋のレトロな豚の貯金箱上目遣いが僕に似ている
085:フルーツ(26〜50)
(津野)籠盛りのフルーツの色は鮮やかに白き部屋には白きカーテン
086:貴(26〜50)
(葵の助) この家に二人の貴公子誕生し我姫でなくドレイとなりぬ。
(廣田) 翳り射すドッグレースの貴賓席飾り帽子の女が笑う
(コバライチ*キコ)貴様とふ呼び名のまかり通りたる時代を思ふ靖国神社