題詠100首選歌集(その42)

 猛暑が続いた後、急に10度近く涼しくなったと思ったら、今日あたりからまた暑さがぶり返して来たようだ。あまり暑いのも敵わないが、このまま涼しくなるのも寂しい話で、まあこれから一進一退で秋に入って行くのだろう。


         選歌集・その42


021:洗(151〜176)
(くろかわさらさ) 洗いたてのシャツばかりをかかえこみひとりぼっちの王様となる
(市川周)環八にセシウム入りの雨が降り洗濯物はやや生乾き
(珠弾)たまってる洗濯物を片付けただけで達成感の休日
(村上 喬) 筆洗のにごりし水面に目をやれば猛暑の空に雲の伸びゆく
028:説(127〜151)
(希)説明はいらない夏の少年の背中につばさが生えていること
(田中彼方)めずらしく見せる真顔が可笑しくて。ホロスコープの説明を聞く。
030:遅(127〜151)
(中村成志)岳樺(ダケカンバ)葉擦れの音のあさぎりの遠く遅くに聞こえけるかも
(珠弾) 遅刻だと覚った朝の六畳間 お湯をわかして二杯茶を飲む
(萱野芙蓉) 花薄荷うすむらさきに揺るる暮れこの世の時計すべて遅れよ
037:ポーズ(108〜132)
(星桔梗) 君がとるポーズが何故か涼しげでこの夏傍に居て欲しくなる
050:酒(77〜101)
(ちょろ玉)日本酒を飲み比べてもお互いに酔ったふりさえ出来ないでいる
(東雲の月)酒瓶の曇りし滴したたりて君の手ついに温もりてくる
(香澄知穂) ライチ酒をオンザロックで舐めながらライトが照らす輪郭なぞる
063:丈(52〜78)
ミウラウミ) 気づいたらあわなくなってる制服の丈を探しにいく十五歳
(青野ことり) 言い訳を考えている 夏の夕 丈の足りない帯しかなくて
(砂乃) いそいそとスカート丈を短くす 娘は恋をしているらしい
064:おやつ(51〜77)
(水風抱月) おやつなら食べてきました だからこの甘いことばはあなたにあげる
(ちしゃ) 幸せは汗ばむコインと引きかえに買ったおやつの中かくれんぼ
065:羽(51〜75)
(夏樹かのこ)喝采も嘲笑もない夜の中羽化した蝉の抜け殻を踏む
(nobu) 蝙蝠の羽はたはたと翻(ひるがえ)り夏の訪れ告げる黄昏
067:励(51〜75)
(原田 町)猛暑日の街角に会う旧友とまず励ましの言葉をかわす
(夏樹かのこ)励ましは声に出さない泣き顔の絵文字の重さは君だけのもの
(湯山昌樹) 「がんばれ」と励まされるも辛いよと言われてもこの言葉しかなし
(酒井景二朗)かくあれと思ひ勵みし日もあれど今飮む酒の苦さ一入(ひとしほ)
068:コットン(52〜76)
(コバライチ*キコ) 雨だれがジャズの音色に溶けた夜君と見たよね「コットンクラブ」
(香村かな)充分にしみ込んでいるコットンの化粧水から満ちてゆく朝
(小夜こなた) コットンの裾がふわりと風を抱き潮騒に誘われる坂道
(湯山昌樹) コットンとかつて回りし水車小屋 壁に錆びたる広告哀し