題詠100首選歌集(その43)

 いつの間にか8月も終わりに近づいた。暑い暑いと言いながら、朝晩は秋の気配を感じることもある。それにしても、昨日の雨にはかなり驚いた。無責任に言えば、多少爽快な感じがしたのも事実だが・・・。

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して7年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


           選歌集・その43


022:でたらめ(155〜179)
(詩月めぐ) でたらめなうた口ずさむ散歩道ひとりと一匹 青田風吹く
(藤野唯)でたらめを言ってでも気を引きたかった あなたはひとり改札通る
029:公式(126〜150)
(中村成志)絶望をもっとも白き恋として非公式めく凪のひととき
(理宇)漢検の黄色い公式テキストを敵視している雨の降る日に
038:抱(110〜134)
(ワンコ山田) 「放課後に待ち合わせしよ」異次元を腕いっぱいに抱き寄せた夏
(葉月きらら) 誰よりも愛していると見え透いた嘘でも胸に抱けば優しい
(珠弾)両膝を抱えたジャージ中学生体育館の床はつめたい
(村木美月) ひぐらしの鳴く森にいて逝く夏の抜け殻を抱く弔うごとく
039:庭(103〜128)
(るいぼす)眩しくて私だけ目を閉じている 庭先で撮った家族の写真
(七十路ばばの独り言)明日からは入院ですと庭に下り花終えし茎切りそろえたり
(中村成志)ヒュプノスの滑りおぼろに鎮もりて雨受け止めし宵闇の庭
(葉月きらら) 甥っ子の好きなブドウを庭中に実らす母の夢が広がる
087:閉(26〜50)
(足知)意味もなく閉じる開くを繰り返すあなたに借りた飛び出す絵本
(おおみはじめ)豪雪に閉ざされている新潟の町を切り取るモノクロ写真
(牧童)閉された想い朽ち果て歳月の砂塵のなかに舞う忍冬(すいかずら
088:湧(26〜50)
(足知)あなたからたっぷり水が湧き出して小さな僕をびしょ濡れにする
(梅田啓子) わが町のはけより出づる湧水を飲みておりけむ志賀直哉氏は
(コバライチキコ)仕立てしは祖母の手にして立湧(たてわく)の柄の浴衣に蛍見にゆく
090:そもそも(27〜52)
(足知) そもそもと僕が言うたらもそもそとあなたは小さな声でつぶやく
(梅田啓子) 何故ここにそもそもわれは何ものぞ 真夜めざむれば蟻が一匹
(豆田 麦)そもそものことの起こりはキミの手があまりに白く細かったから
092:念(26〜50)
(おおみはじめ)妄念の万年雪にうずもれた言葉を探す術のつたなさ
(コバライチ*キコ)念仏を唱うる僧の広き背に西日の影が伸びて這いおり
093:迫(26〜50)
(津野)短冊に浄めの墨で書き倦む願うことみな脅迫めいて
(コバライチ*キコ) 刻々と夕闇迫る立秋霞が関のビルは熱持つ
095:遠慮(26〜50)
(おおみはじめ)遠慮なく相談せよと言いながらつねに上から目線の言葉
(牧童) 思慮あらば遠慮もするが老いらくは枯れゆくリラの恋にひれ伏す
(コバライチ*キコ)つばの下遠慮がちなる瞳にてルノワールの絵の少女微笑む