題詠100首選歌集(その44)

          選歌集・その44


004:まさか(233〜257)
(とん) 笑っても どうかまさかと言わないで あなたのことが大好きでした
滝音) 「まさか」って軽い言葉で消えないか友の訃報にぬれじゃくる夜
025:ミステリー(152〜176)
(さくら♪)ミステリー小説のオチきっかけに会話生まれる引越しの朝
(桑原憂太郎)ミステリーを読み終へたあとおもむろに進路指導業務はじめる
(祢莉)ミステリー読んでる君の横顔をそっと見つめる雨の図書館
031:電(126〜150)
(桑原憂太郎) エコのため節電のため千年に一度と呼ばれる今夏を過ごす
(星川郁乃)冷蔵庫にビールは冷えてコーヒーを電子レンジで温めて、秋
033:奇跡(126〜150)
(村木美月)眼差しはいつも未来を向いているひまわりになり奇跡を祈る
(萱野芙蓉) かつてきみが奇跡の五月と呼んでゐた日々がわたしを生かし続ける
(モヨ子) また君に逢えるだけでも奇跡だと見上げる空を覆う群雲
(砺波 湊) 冤罪の囚人役の俳優の奇跡みたいなきれいな爪だ
040:伝(106〜130)
(ワンコ山田)「たすけて」が伝えきれない夜がある腕を伸ばして届かない君
(中村成志) 悪魔などすべて天使の成れの果て驟雨の水の幹伝うあさ
(A.I) 裏紙の海に埋もれた伝言が鮮度を落としゆく夏の午後
(伊倉ほたる) 曖昧なことばで縁取りされていてハミングまじりにつなぐ伝言
051:漕(76〜100)
(湯山昌樹)一本ずつ従兄とオールを握れどもまっすぐ漕げず泣いたあの夏
(龍翔) 思い切りブランコを漕ぐ 最初から何処にも行けないことは知ってた
(藻上旅人)ボート漕ぐ手を休めては空を見た言えなくってもいいと思った
052:芯(76〜100)
(久哲)尺と言う古い単位に包まれて花火の芯で眠る夏色
(五十嵐きよみ) 真ふたつに梨を切るとき包丁に伝わってくる芯の手ごたえ
053:なう(77〜101)
(湯山昌樹)旨そうなうなぎのにおいさせていた店も跡継ぎなくて閉じたり
(藻上旅人)お互いにかわす言葉を探してた静かなうたが聞こえるように
069:箸(51〜75)
(香村かな) 割り箸を口にくわえて割る君の器用さにふと微笑む至福
(小夜こなた) お揃いの箸でおかずをつつき合いながらいつしか似たもの夫婦
(砂乃)箸箱にお昼の薬を入れておく休むことなど出来ない君に
089:成(26〜50)
(梅田啓子)わが腕を吸いしばかりに成仏する蚊の晩年は二十秒ほど