題詠100首選歌集(その46)

 最終題がやっと50首に達した。去年が9月18日だから、それより少し早い。もっとも、去年の今日9月13日は、「選歌集その49」なので、それよりはちょっぴり遅れている。まあ大雑把に言えば、去年と似たようなペースということなのだろう。
 ここ数日、暑さが少しぶり返して来たようだ。当然のことながら、こうして一進一退で、例年通りお彼岸に入って行くのだろう。

     
         選歌集・その46

009:寒(210〜234)
今泉洋子)寒林檎食めばさくさく白秋の恋人に降りしきる朝の雪
(桑原憂太郎) あゝ寒いが堂に入つてる国語科のおばさん教師が廊下を歩く
(モヨ子) 寒風が身を切る朝は吐く息に君を念じる駅までの路
016:絹(178〜202)
(くろかわさらさ) 絹の雨まとう少年くちびるのさきにかすかなひかりをためて
(月原真幸) 絹さやのすじを折り取る 帰りたいところがあると笑ってみせる
今泉洋子)生き物の絹の眠りを覚まさんと土用の風を着物にあてぬ
024:謝(155〜179)
(志歩)謝れば消えると思った夏の日が後ろ姿を黒に染めてく
035:罪(126〜151)
(桑原憂太郎) 可能性無限にあると生徒らに喋る教師は罪深き職
佐藤紀子)罪のない笑顔でしらっと嘘をつく 四歳なりの智恵かもしれず
070:介(51〜75)
(猫丘ひこ乃)介護する吾の腕(かいな)は母の背の震えにまじる寂しさも抱く
(青野ことり) 抑揚も語勢も想像するばかり文字を介してつながる人の
072: 汚(51〜75)
(原田 町) 「汚れなき悪戯」という映画ありマルセリーノは足し算習う
(砂乃)こっそりとエリソデ汚れを確かめる義母はなんにも言わないけれど
096:取(26〜50)
(足知)カーテンを取り付けている日曜日あなたは五月の風を待ってる
(おおみはじめ)取り巻きと話す笑顔の明るさに宴会場の出口を探す
(新田瑛) 悲しみの底から爪の先までを切り取り線に沿って切り取る
(猫丘ひこ乃)刈り取ったドクダミの香は満ち満ちてラジオ体操第二はじまる
097:毎(27〜51)
(廣田)別離から過ぎる日毎に消えてゆくあなたが残した空白のあと
(梅田啓子)≪ おいしい ≫をテレビは毎日連呼する≪ 日本の力を、信じてる ≫の後
(新田瑛)生きてゆく理由の無さを感じつつ毎週木曜食べるコロッケ
(東 徹也)ありふれた空の下での毎日が特別だったふたりの5か月
099:惑(26〜51)
(足知)惑星のようにあなたを核として僕はかなしいダンスを踊る
(まるちゃん2323) 誘惑の黒い瞳に影射して狂った夜の初夏に恋する
(廣田)戸惑いが窓の向こうを流れゆく雨の避暑地に僕らは眠る
100:完(26〜50)
(こすぎ) 完結は死とは限らず遺された人がみつめる信号は黒
ミウラウミ)おしまいに完のマークを打ち忘れた映画のようにすぎてゆく日々
(コバライチ*キコ) あの恋も過去完了形になっちゃった蒼濃き森に蝉時雨ふる