題詠100首選歌集(その47)

            選歌集・その47


026:震(152〜176)
(桑原憂太郎)震災の年に生まれし生徒らの巣立つた午後に地震が襲ふ
(笹木真優子) 真夜中に耳を澄ませば窓が鳴る(震えているのはあたしじゃないわ)
(星川郁乃) 「震」といえばそれよりほかはもう遠く遠く霞んで3.11
(逢) 「さよなら」がすこし震えていたことに気づかないふりをして手を振った
043:寿(101〜125)
松木秀)「長寿医療制度」とかいう言い換えもE電のごとく忘れ去られて
佐藤紀子)てきぱきと働く女性増えてきて寿退社は死語となりたり
056:摘(76〜100)
(suzu) 待ち人が来るかどうかの確信を持てず一人で庭の薔薇摘む
(藻上旅人)始まりは終わって気付くいつだって摘まれた夢を取り戻すまで
(南雲流水)幸せの芽を摘み合いしふたりにも夏は近づく八十八夜
057:ライバル(76〜100)
(suzu)大都会横断歩道ですれ違う誰かがいつかライバルとなる
(穂ノ木芽央)ライバルの訃報を聞きし短夜にon the rocksのグラスをふたつ
060:直(76〜101)
(suzu) 直されたスカート丈に戸惑ひて自分らしさを見失う夏
(東 徹也) 「き」を押せば「キス」が変換候補になる素直な親指携帯メール
(五十嵐きよみ) 目を閉じて聴くピアノ曲ゆっくりと素直な気持ちを取り戻すまで
(るいぼす)直木賞作家の官能小説のようなメールが恋しい0時
(七十路ばばの独り言)まっ直ぐに生きよと生徒諭すとき心の隅にわだかまるもの
071:謡(51〜76)
(猫丘ひこ乃) 童謡のソノシート赤く透きとおる西日の強き叔母がいた部屋
(不動哲平)昨日まで歌謡曲しかない町に住んでいた気がしてしかたない
(東雲の月)路地奥に謡はひそと漂いていにしえぶりの風そよと吹く
073:自然(51〜75)
(原田 町) 無農薬自然農法気負えどもぼろぼろキャベツに笑ってしまう
074:刃(51〜75)
(原田 町) 牛刀は無いが柳刃出刃はあるきみの不在の夜のキッチン
(香村かな)優しさが痛みにかわるような朝にぶく突き刺す孤独な刃先
(夏樹かのこ) 巷では凶器にもなる刃を握り猫手作ってピーマンを切る
(不動哲平) 剃刀の替え刃さがしてさまよえば歓楽街に夕陽が沈む
076:ツリー(51〜75)
(髭彦) 聳え立つスカイツリーも日々浴びむ北風運ぶ核の礫を
松木秀)風情ある「業平橋」の名を消して東京スカイツリー聳える
(ちょろ玉) ミニツリーさえ飾らない我が家にもサンタが持ってくるプレゼント
098:味(26〜51)
(天鈿女聖) 左手をつないでみたらわかったよ 煙草はいつもメンソール味
(新田瑛)今朝もまた味噌汁だけの朝食はただ味噌汁の味ばかりする