題詠100首選歌集(その48)

選歌集・その48


017:失(179〜203)
(くろかわさらさ) 少年のしろいからだにゆびさきでふれれば雨に失うなにか
(田中彼方)「楽に生きる記憶喪失法講座」に、通ったけれども、忘れてしまった。
今泉洋子)得しものと失ひしものこもごもとありて生半ば木槿咲き継ぐ
044:護(101〜125)
ウクレレ) 君だけの守護神になるピンチでは150キロの速球投げる
(ワンコ山田)護られている感覚は刹那だけ「ずっと、とわに」は無い君の傘
058:帆(77〜101)
(五十嵐きよみ)今日聞いたそのひとことを帆に受ける海風として先に進もう
(香澄知穂)曇天のベイサイドには帆を畳みヨットが並ぶ 身を寄せ合って
(中村成志) 帆柱が綱を鳴らして マリーナの奥へ奥へと 波を押し込む
059:騒(76〜100)
(湯山昌樹) 教室の騒ぎに気づき階段を駆ける熱さは持ち続けている
(鈴麗)ここで生きここで枯れろと言うような潮騒からは背を向けている
(五十嵐きよみ)下巻では人騒がせな脇役が主役になっているかもしれず
(中村成志) 紫陽花が騒がしいのは 太陽が寡默だからで それっきり夏
(ワンコ山田)「物騒なことを」瞬く真夜中のマナーモードはまた惑わせる
075:朱(51〜75)
(原田 町)延々とつづく鳥居をくぐり行く伏見稲荷の朱色の世界
(香村かな) 朱鷺色に染まる夕暮れこのままじゃいけないことは知ってるつもり
077:狂(51〜75)
(原田 町) 小綬鶏の素っ頓狂な鳴き声を聞かなくなりぬ竹やぶ失せて
078:卵(51〜75)
(ちょろ玉) ぼくはまだこころのなかにいつまでもわれない卵をあたためている
(砂乃)産卵を繰り返すうち弱りゆくめんどりのような母の輪郭
079:雑(52〜76)
(ほたる)雑巾をぎゅっと絞って床をふきグングン迫る夏を受け止める
(猫丘ひこ乃) 雑穀のごはんのような水玉の祖母のエプロンつけて煮る豆
(香村かな)テーブルに開いたままの雑誌から零れる夏の午後の煌めき
(小夜こなた)雑然と死体が積まれていたと云う通りを抜ける八月の風
(ちょろ玉)雑踏に失くした君の影などを遠い田舎で探してる旅
(湯山昌樹) 雑巾で一脚一脚拭いてゆく 祭の前の静かな準備
080:結婚(51〜75)
(香村かな) 友人の結婚式のホテルからやけに眩しい東京タワー
(青野ことり)きょうからは姓が変わるね 晴れた日の結婚式の帰り 夕映え
(砂乃) 「結婚」を逃げ道にしてトンネルを抜け出るように会話を終える
(晴流奏) 結婚の意味を問われる現代にありて空しく響く『コンカツ』
(nobu)幸せな結婚よりも愛人でいること選び赤い薔薇買ふ
082:万(51〜75)
(原田 町)小池光永田和宏それぞれの万感あらん亡き妻うたう
(草間環) 万が一貴女に触れることがあり泣いていいなら雨の日にする
(矢野理々座)万札は複数ならばエラそうに 1枚だけなら詫びつつ使う
(砂乃) 万感の思いを込めて見つめれば娘が振り向く卒業の朝