題詠100首選歌集(その49)

今日は冷たい秋の雨が降った。日暮も早い。何の不思議もないことだが、間違いなく季節は変わって行く。

         選歌集・その49


007:耕(231〜256)
(とん)びうどどど 夏の天のかなたより雲を耕す風走りをり
(長月ミカ) トラクター乗って耕すたれかれも皆亡き祖父母に見えてかなしき
(勺 禰子 しゃく・ねこ) 耕せばいよいよ潜るものありて真黒き土の匂いのみ嗅ぐ
018:準備(179〜203)
(北爪沙苗)また秋の準備の季節 涼しさはあの風鈴が知っているから
045:幼稚(104〜129)
(伊倉ほたる)撫でられて猫になりたいこのままで幼稚なところが好きだといって
佐藤紀子)幼稚園のお遊戯会に踊る児の数より多きカメラがならぶ
(村上 喬) 秋雨に色とりどりの花が咲く幼稚園児は母をさがせり
(由弥子) 幼稚舎のシーソーに座る君はだれ錆びた門には廃園の札
046:奏(102〜126)
(本間紫織)長い長い間奏だった 20年ぶりに色づくラブストーリー
(萱野芙蓉) ふと見える追はれるうさぎ追ふきつね、コントラバスを奏でる指に
(鳥羽省三) 奏鳴は寂として果つ午後八時サントリーホールしはぶきの満つ
(村上 喬)秋の日はしずもる調べ奏でおり林に森に枯れ葉ふりつむ
(由弥子) 十月は時のひろがり奏でたるほろびたひとも木蔭に立り
047:態(103〜127)
ウクレレ) 「好きです」がカップの底に溜まっててぼくらの恋は飽和状態
(南雲流水) 悪態をつくでもなしに別れては黴びたチーズのように愛する
(冥亭)人嫌いせる少年の頬を撫づ 汝の媚態に飽くその宵に
(萱野芙蓉)呪にちかき悪態をつく明け方の空に鴉を放つがごとく
(音波)夏の夜が世界を抜けてゆく前に君はわずかに変態をする
048:束(102〜126)
(南雲流水)束縛は耐えられないし独りでも生きていけない梨剥きながら
(ワンコ山田)日に何度束ねた髪を解き放つ秘密をぎゅっと束ねるために
(さくら♪) 大好きな秋桜の花一抱え花束にして歩き出す秋
(鳥羽省三) 送り火に歌稿一束投げ込んで成さぬ虚名の身の始末せむ
(珠弾) うしろ髪束ねて夏のお嬢さんクールミントの風を運んで
(萱野芙蓉) いもうとの束ねた髪に揺れてゐるあれはわたしがなくしたひかり
081:配(51〜75)
(原田 町)この夏は向こう三軒ゴーヤ植えわが家のゴーや配れずじまい
(青野ことり) それぞれが違う思いを胸におき配られた紙じっとみている
(夏樹かのこ) かなしみが配達されて走り去るバイクの臭いに朝焼けを待つ
083:溝(51〜75)
(やまみん)溝の口 時代の流れを感じつつ ビルの合間の空を眺める
(夏樹かのこ)側溝の桔梗一輪あでやかに冴えて少女が自転車を駆る
084:総(51〜75)
(原田 町) 総括の言葉とともに記憶せる永田洋子の訃報を知りぬ
085:フルーツ(51〜75)
(東 徹也) 絡まった糸をほぐしていくようにフルーツティーの香り甘やか
(いちこ(suzu)) 幼子のようにフルーツパフェを食べ大人のフリしてコーヒーを飲む
(小夜こなた)甘酸っぱいフルーツソースの味がした春夕焼けにとけてゆくキス
(ちょろ玉)デザートをフルーツと呼ぶ祖母でした 君付けでぼくを呼ぶ祖父でした