題詠100首選歌集(その50)

          選歌集・その50


011:ゲーム(203〜227)
(さくら♪)手作りのゲームで遊ぶ子らの声明るく強く響く避難所
月夜野兎) もういいね疲れるだけの恋だから 自分で選ぶゲームオーバー
027:水(152〜176)
(月原真幸)おたがいをかけがえのないものとして水素と酸素みたいなふたり
今泉洋子)水にさへ陰陽あるを哀しみて寅の時刻の水を汲みあぐ
(黒崎聡美) ぬるい水を口に含んだ そういえば今日は誰とも話していない
049:方法(103〜128)
ウクレレ)ゆっくりと生きる方法考えて生命線を何度もなぞる
(南雲流水) 嫌われる方法ばかり思いつく眠れぬほどに気になる夜は
佐藤紀子)方法はまだ何かある 夕空を見上げてほつとため息をつく
050:酒(102〜126)
(七十路ばばの独り言)高温を警告する報今日も出た江戸切り子に満つ冷酒涼やか
(平野十南)せくすしてまだ淋しくて手をつなぐ麦酒の色の風の吹く夏
061:有無(76〜102)
(るいぼす)冷蔵庫の中の調整豆乳の有無を気にする土曜日の朝
(穂ノ木芽央)出席の有無を訊ねる葉書きて何処にも○をつけられぬ春
(紗都子)やさしさの有無を見きわめ速やかに選別をする四月の少女
(南雲流水)配偶者その有無欄に丸を付け知られぬように窓口に出す
062:墓(76〜100)
(東 徹也) 繰り返し交わしたキスは寡黙にも別離を語る寂しい墓標
(湯山昌樹) 現職で逝きし恩師の墓誌を見て我が齢(よわい)との近さに驚く
(るいぼす)墓前にて数十秒の報告をする横顔を今年も見ており
(ちょろ玉)墓場まで持っていきたい嘘たちを君といっしょに暗闇で焼く
(伏木田遊戯) 墓の字に似ていることが蟇の前途を少し暗くしている
(紗都子)炎天の公園墓地にただひとり滴る汗はぬぐわずに行く
068:コットン(77〜101)
(南葦太) 不自然に騒いだ夜にコットンで拭き取っているナチュラルメイク
(五十嵐きよみ)コットンは日向のにおい取り込んだ洗濯物に顔をうずめる
(モヨ子) コットンと素肌のあわいに手を入れて君を感じる朝焼けのもと
086:貴(51〜77)
(草間環)貴腐というくさり方さえ似合うのは真昼の月のようなひと粒
(nobu) 貴婦人の扇(おおぎ)のような雲流れ夏の匂ひの駅に降り立つ
087:閉(51〜75)
(只野ハル)閉ざされたこの世界には再開の叶わぬ人の思い出ばかり
(ほたる)閉ざされた小さな窓にはミルク色の月だけほんわり夜の飛行機
(砂乃) ぴったりと閉めないでおく格子戸は 子猫が帰ってくるまで待とう
(酒井景二朗)やはらかく閉ぢたる瞼觸るるごと名も知らぬ實を撫でて行く道
佐藤紀子)飛び込みて値下げの刺身を買いあさる閉店時間の迫るデパ地下
088:湧(51〜75)
(只野ハル) 湧水の流れて下り水脈となる海に還そうこの悲しみも
(酒井景二朗) 湧水の瘤なす程の勢ひを飽かず眺むる散歩の途中
(青野ことり) 目覚めれば秋はにわかに湧きあがり金木犀の香りで満ちる