題詠100首選歌集(その51)

           選歌集・その51

036:暑(135〜159)
(萱野芙蓉)暑い夏でしたね脱いだうすものに夕映えあはくほてりを残す
佐藤紀子) 帰り来て窓を大きく明け放つ 昼の暑さの籠れる部屋に
(星川郁乃) 書きかけた残暑見舞いは出せぬまま褪せて彼岸の中日が来る
(希) 暑かった夏の一日一日が空の高みでさば雲になる
037:ポーズ(133〜157)
(睡蓮。)もてあます湯上り素肌 月影にポーズつくってみたって一人
(市川周) 不本意なポーズで化石になりました(博物館の外はカナカナ)
(平野十南) 葉巻吸うポーズで写るアルバムの祖父の眼つきを誰も真似せず
039:庭(129〜153)
(雑食)校庭の隅の銀杏に許されぬ思いを刻み続けたナイフ
(新藤ゆゆ)はだしでは追いつけなくてもうずっと庭に埋まったままのやくそく
今泉洋子)何処からか匂ひ初めたる木犀の香盗人庭に佇む
052:芯(101〜125)
(紗都子) 直角にナイフを入れて芯をとる林檎は何を捨てたのだろう
(モヨ子) 芯弱き女であればプラタナス思わせる君にそっと寄り添う
(桑原憂太郎) 替え芯のみつからないまま今日付の事故報告書の記入を終える
(烏野サギ子)悪習は身体の芯に沁み着いてもう戻れない ひとりの夜明け
053:なう(101〜125)
(ちょろ玉)もしもいまねがいがひとつかなうならねがいをふたつかなえてほしい
063:丈(79〜103)
(五十嵐きよみ) ウェストを揃って二回折り曲げた女生徒たちのスカートの丈
(ちょろ玉) 眠れない夜ばかりでも大丈夫 夢ならいつも追っているから
佐藤紀子)丈夫なら不満を言ふのは贅沢と夫にまたまた諭されてをり
(紗都子) 草の丈ぐんぐん伸びる黄昏に子どもの時はゆったり満ちる
(ワンコ山田)身の丈に合う恋ひとつ抱きながらうずくまったり背伸びをしたり
(桑原憂太郎) 冷ややかに見つめる生徒の身の丈にあはせたつもりで指導進める
064:おやつ(78〜102)
(五十嵐きよみ) すかんぽがおやつだったと叔父がまたいつもの昔話を始める
(ちょろ玉)桑の実が採れる団地に育てられ、おやつは自然ばかり食べてた
佐藤紀子) 遠足のおやつを子らと買ひたりき 百円以内と決まりゐし頃
(紗都子)「おやつよ」と呼ばれるときの甘やかなあなたの声を忘れかけてる
(ワンコ山田)返信の「夜のおやつが大好き」の「大好き」だけを切り取っている
(桑原憂太郎) 遠足のおやつの種類と靴下の色で会議は混沌とせり
066:豚(76〜100)
(五十嵐きよみ)つぎつぎと崖から海へ身を投げる豚を数えて眠りにつこう
佐藤紀子) 故里の夏には父母が使ひゐき豚の形のピンクの蚊遣り
089:成(51〜75)
(やまみん)見上げれば 空に描かれた物語 雲と光が織り成し綴る...
(青野ことり)母子手帳持っていってね成長の記録や離乳食のメニューも
090:そもそも(53〜77)
(小夜こなた) そもそもの始まりとして君の声、二月、目覚める前の海鳴り