題詠100首選歌集(その53)

 このところ急に涼しくなった。昨日からカーディガンを羽織って靴下を履いているのだが、それでも薄ら寒さを感じるほどだ。この題詠100首も、早いものであと1月あまりとなった。


<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して7年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


        選歌集・その53

006:困(230〜256)
(桑原憂太郎) 色覚に困難のある女生徒のカバンに茶色いキティが揺れる
012:堅(230〜256)
(桑原憂太郎) 堅牢な城壁のごと放課後のティーンエイジのとあるこだはり
(冬鳥) 友を待つ堅いベンチにある余白 求めることはいつもくるしい
(ろくもじ)口は堅い人だったなと思い出す 陶器のカップは独りで割った
020:幻(180〜204)
(北爪沙苗)喜びを病巣として幻を乗せた列車を見送る真夏
028:説(152〜176)
(星川郁乃)説得を諦めながら合わせてる歩幅(私には広すぎる)
今泉洋子)説明と報告の歌ばかりしかできぬ秋日は空を見上げる
029:公式(152〜176)
(新藤ゆゆ)公式にあてはまらないぼくたちの積載量をはかりかねてる
(黒崎聡美) 梅雨闇の真昼の部屋にアイドルの公式ブログは笑顔ばかりだ
(詩月めぐ)公式は忘れたけれど5限目のきみの寝顔はまだ覚えている
051:漕(101〜126)
(ちょろ玉)夢の島へ船を漕ぎ出す五限目の幼なじみの背中を見てる
(珠弾)あてもなく自転車漕いでいる街の変てつのない午後の豊かさ
(萱野芙蓉)今宵照る月の面(おもて)の陰翳をガレーの漕ぎ手も見たかもしれず
070:介(76〜100)
(ちょろ玉) 自己紹介カードにはある 「はじめまして、二児ではなくて虹の母です」
(五十嵐きよみ) 一枚の上着を傘にして駆けるふたりで「介」の字になりながら
091:債(52〜76)
(ネコノカナエ) ここに在るだけで債務を負うような気分で春の雨を歩いた
092:念(51〜75)
(原田 町)仔犬抱き特攻兵たち笑ってる記念写真のいまも優しき
(ほたる)封筒の角はまあるく色褪せて記念切手の名も知らぬ花
(nobu) 情念は燃ゆる焔(ほむら)か黒髪か 松園の絵の前で動けず
093:迫(51〜76)
(晴流奏)韋駄天の風を纏いて迫り来る囃子太鼓とらっせらの声
(砂乃) 迫りくる夕闇にふたりくるまれて秋に体温奪われていく