題詠100首選歌集(その58)

             選歌集・その58

016:絹(203〜227)
(鮎美) 母のいふ砂漠はいつも月夜にて絹積む駱駝は必ず二頭
ひぐらしひなつ)絹よりも木綿を好む六月がありてやさしい雨もひかりも
022:でたらめ(180〜204)
今泉洋子)でたらめな言い訳ばかりするわれをじんわり濡らす秋の雨降る
(みゅーたん)真面目にもでたらめにも生きられなくてため息ばかりが降り積もる夜
ひぐらしひなつ)愛すべきでたらめ具合 サンダルを引きずる癖もあの日のままで
023:蜂(180〜204)
ひぐらしひなつ)とめどなく指にしたたる蜂蜜と死と底抜けの今朝の青天
(豆野ふく)蜜蜂の群れが家路に就いたころ おやすみなさいを言うヒツジグサ
(粉粧楼)知っている嘘ばかりただ集めたね蜂蜜色の日差しの中で
025:ミステリー(177〜201)
(月原真幸)いつの間に消えてなくなるミステリーみたいな夢のかけらの話
月夜野兎)もう一度はまってみたいミステリー小説みたいな君との時間
(豆野ふく) 公園の木のうろに棲むミステリー作家みたいな茶色いキノコ
045:幼稚(130〜154)
(希) だまされてみてもいいかな今日くらいたとえばひどく幼稚な嘘に
今泉洋子) 酷評を浴びし幼稚な歌あまた海馬の闇にころがつてゐる
046:奏(127〜151)
(空音) 雨音の奏でるリズム目を閉じてうつらうつらと日曜の朝
(月原真幸) 2の指で奏でる白鍵/黒鍵のたどたどしさで愛されている
062:墓(101〜125)
(空音)息切らし外人墓地の坂道を上って行けば夏雲の浮く
(雑食)十月の日差しのぬるい墓石に触れてあなたを思い出す午後
(村木美月)かなしいをちゃんと形にできたからお墓の前で笑ってみせる
今泉洋子)戦国の武将の墓にまじらひて二十八女と彫れる墓碑あり
081:配(76〜100)
(香村かな) 宅配のピザがもうじき届くから別れ話は一時おあずけ
(桑原憂太郎)プリントを配る動作も担任の物真似をする一つとなりぬ
(うたのはこ)北の街からの貴方のエアメール冬の気配を少し宿して
083:溝(76〜100)
佐藤紀子)いつの間に出来たる溝か 親友が知人となりて数年が経つ
(東雲の月)側溝に落ちた車は無念さを傾いだ角度で訴え続ける
(南葦太)負け犬の視点で歩く道の端 排水溝に草が生えてた
084:総(76〜100)
(ネコノカナエ)「総持寺」と御詠歌に聴き掃除する祖父をおもった幼い夏の日
(七十路ばばの独り言)人生の総決算はいつかしら出納帳の残りは薄い
(五十嵐きよみ)総論の先の各論 わかり合う努力がたまに面倒になる