題詠100首選歌集(その61)

         選歌集・その61


017:失(204〜228)
(生田亜々子) 近づいてやがて失うことになる方がこわくて見下ろす夜景
024:謝(180〜205)
今泉洋子)駅伝の中継カメラが映しをり拝観謝絶の古都の寺院を
(小林ちい)ぶつかればちゃんと謝る金髪の下の意外とかわいい素顔
037:ポーズ(158〜182)
(粉粧楼)思い出にポーズボタンがあるのなら君と出会った夜で止めておく
048:束(127〜151)
(新藤ゆゆ) 束の間をつなげるためのセリフとか微笑みとかを備蓄している
(村上 喬) 秋の日の吐息もれたる束の間に柿の実うれてまた一つ落つ
ひぐらしひなつ) 髪ゆるく束ねて不意に思い出す感触しばし冬陽にしずむ
070:介(101〜125)
(伊倉ほたる) 厄介な留守電を消す真夜中の雨で濡らした靴のつま先
(黒崎聡美)赤や黄の紙の葉っぱのあざやかさ介護施設を包む夕暮れ
(粉粧楼)遺伝子に魚介の記憶息づいて水の恋しい夜は眠れず
072:汚(101〜126)
(ワンコ山田) 明らかに私の辞書が汚れてる消すに消せない時のかさなり
(さくら♪) 君送る福島の空秋晴れて汚れを知らぬ少年の青
073:自然(101〜125)
(伊倉ほたる) 不自然な笑顔を映すコンパクトはみ出し気味に塗った口紅
(萱野芙蓉) 碧瑠璃に匂ふ眼ならむ川波のひかりのなかに舞ふ自然居士
(月原真幸) 後悔もいいわけもなく不自然にまるいボタンをとめなおしてる
091:債(77〜101)
(ちょろ玉)国債の「債」という字に描かれた「人」って誰のことなんだろう
(紗都子)債権も債務も持たず生きるなら風のかたちになれるだろうか
(五十嵐きよみ) 国債のニュースばかりが目に入る「債」のお題に苦労する日に
092:念(76〜100)
(ネコノカナエ)初夏の日はざわりと思いを揺りおこす ただ念入りに畳を磨く
(東雲の月)念仏の吸い込まれゆく青空に思い出とする人を彩る
(小夜こなた) 鈍色に染みた貴方の情念が重ねた肌を虚ろにさせる
(うたのはこ)また明日も花束贈る口実に何でもない日を記念日にする
093:迫(77〜101)
(ネコノカナエ)すぐそこに夜明けが迫る 静寂を破り戸を開け迎えに行こう
(香村かな) すぐそこに迫る危険があるとして試してみたいキズナってやつ
(村木美月)ストーブをつけたら急にクリスマス迫って明日はリースを飾ろう