題詠100首選歌集(その62)

選歌集・その62


018:準備(204〜228)
(北爪沙苗)また秋の準備の季節 涼しさはあの風鈴が知っているから
(清次郎)いつだって旅立ちのときは過ぎていて昨日の準備ばかりしている
052:芯(126〜151)
(揚巻)泣かぬのは泣かせてほしいからなのに拗ねたりんごの芯まであおい
今泉洋子) 柿の芯食べたら耳が遠くなると言ひし祖母(おほはは)思ふ秋の暮れ
(村上 喬)白百合の花芯をつまんだ指先で窓のくもりをあなたは拭う
(理阿弥)わが祖父に巣食ふ腫瘍の芯かたし背中にベビーパウダーを塗る
053:なう(126〜151)
今泉洋子)肴には大きなうなぎ秋の夜の酒は鍋島それだけで足る
(黒崎聡美)九歳が十一歳となっていてあまり話さず犬をともなう
(村上 喬)明け方の雨にともなう淋しさも雪へとかわる冬ざれの道
071:謡(102〜126)
(星桔梗)童謡を子守唄とし眠る子よ明日の虹を君にあげよう
(音波) 日に焼けた昭和歌謡のレコードのしかもB面みたいな愛だ
(伊倉ほたる)流れ出す時代遅れの歌謡曲ささくれを剥くちいさな痛み
(萱野芙蓉) 駒鳥を殺したすずめそのわけを語らぬままに童謡は終はる
(揚巻) 奪われたこどもを呼ばう童謡の暗い瞳であのこがほしい
(黒崎聡美)童謡のメロディーながす信号機 見るたびに葉を落とす樹を背に
074:刃(103〜127)
(空音)なにげない言葉にすぐに傷ついて刃に感ず己哀しき
(村木美月) かなしみが増えてくだけの生き方を諸刃の剣抱いて歩む
今泉洋子)刃(やいば)研ぐ初夢覚めて産土の太郎月の空どんよりとあり
(黒崎聡美)曇天に鈍い光を放つ刃で種なし柿をただ剥いていた
(詩月めぐ)きんきんと真白に凍る三日月が刃のように突き刺さる夜
075:朱(101〜127)
(南雲流水) 最後まで流され切れぬ情がある離婚届の薄れた朱肉
(伊倉ほたる)喚び起こす記憶のページは破られて朱肉の匂いが残る指先
(螢子)朱々と燃える山際あの人も見ているだろか秋の夕暮れ
(峰月 京)G線を朱色に染める恋心目の前で弾く音色が憎い
076:ツリー(101〜126)
(南雲流水) クリスマスツリーを飾るモミの木が今年も切られ召される季節
(村木美月)100均にツリー飾りが並べられ今年も残りわずかと気づく
077:狂(102〜126)
(穂ノ木芽央) 狂気へのあこがれ闇に閉ぢ込めて今日も仮面をつけるその罪
(揚巻) 滅亡の予言のように狂詩曲むなもとふいにけものがさわぐ
(理阿弥)街灯の・ひかりの・傘に・粉雪の・風に・狂って・まわる・カデンツ
(黒崎聡美) 少しずつ狂う時計をそのままに(きづき、わすれて)晩秋となる
094:裂(76〜100)
(ネコノカナエ)真夜中を静かに裂いてシリウスが昇る静かに確かに燃えて
(富田林薫)金の糸を織り交ぜながら深層の裂け目を縫って暮らしています
(龍翔)引き裂かれ弾けて飛んで転がったボタンの穴が君を見ている
(香村かな)おやじギャグ炸裂してる飲み会でさらりとかわす君の力量
095:遠慮(76〜100)
(紗都子) 遠慮などしていないのに顔色を気にされている逆光の席
(ワンコ山田)ためらいと遠慮のまじる送信が遠いどこかで鳴らす着信