題詠100首選歌集(その63)

選歌集・その63


009:寒(235〜259)
(豆野ふく)肌寒い風に暦を示すように翻し行く春色スカート
(はせがわゆづ)初雪を待つ夕暮れに寒椿の散るその時をじっとみていた
(樹)寒ブリを下げてうちまで来る人の肩にも雪はつもっただろう
038:抱(160〜184)
(黒崎聡美)花束を抱きしめるように持つ人は山手線のホームにむかう
(藤野唯)抱かれないことをえらんで帰る夜もう二度とないことだとしても
ひぐらしひなつ)そう、いずれ忘れるでしょう抱くときのかすかな翳りそしてあなたを
(生田亜々子) 抱かれた記憶は無くてそれを抱きしめた形で固まる記憶
039:庭(154〜178)
(清次郎)小さき小さき実家の庭の剪定に八段の脚立運ばれ来たる
040:伝(156〜180)
(藤田美香)雨樋を伝う音符をたいくつな私は泣きたい順番で弾く
(詩月めぐ)頬伝う雨が涙に変わらぬよう急いで開く折りたたみ傘
078:卵(102〜126)
(伊倉ほたる)戻せない時間ばかりが増えていく固ゆで卵の黄身は蒼くて
(村木美月) 孵化しない卵を温め待つような想いを秘めた夜のバスタブ
(揚巻)排卵日すてたゆうひのまたたきを俯いて聴くちいさな音符
(黒崎聡美) おおざっぱにいこうと思う朝八時卵かけごはんひとり食べつつ
(詩月めぐ)簡単に片手で卵を割る君の作るオムレツしあわせふわり
079:雑(102〜126)
(伊倉ほたる)牛乳を拭いた雑巾 罪のないものが凶器に変わる教室
080:結婚(101〜125)
(揚巻)ペンだこもかつて結婚したひともやさしい壁のむこうへ行った
今泉洋子)占ひは全て悪いが結婚運のみ良いという信じて生きる
082:万(101〜125)
(五十嵐きよみ)懐かしい昭和のにおい引き出しの奥から万年筆が見つかる
(小林ちい) ストーブに灯油を足せば夜半過ぎて100万都市に初雪の降る
今泉洋子)虚木綿(うつゆふ)の山に籠もれば万緑はたましひまでも青く染めゆく
096:取(78〜102)
(香村かな) 取得した資格の数と同じだけ諦めてきた恋もあるから
(飯田和馬) 手に取れば香り重みが嬉しくて林檎をみがく眠れない夜
097:毎(77〜101)
(ワンコ山田)日常に染まりきらない音質の着信毎に夜が震える