題詠100首選歌集(その65)

               選歌集・その65


004:まさか(258〜282)
(奈良絵里子)「まさかあの子が」ってわざと大袈裟にはしゃぐわたしの声が醜い
(きさらぎ) テレビでは警察手帳舞い踊りいつもの「まさか」を経て終わりゆく
(粉粧楼)疑いは重なるごとに鮮やかでまさかの重さただ抱きしめる
011:ゲーム(228〜252)
ひぐらしひなつ) 白熱のゲームはドロー 夕立ちの過ぎた傾斜をゆっくり下る
(飯田和馬) 飽きられたゲームソフトを借りてきてとても大事に遊んで飽きる
(はせがわゆづ)くるりくる人生ゲームのルーレットは止まらないまま明日になった
029:公式(176〜200)
(みち。)ととのった公式みたいな恋をして解答用紙を火あぶりにする
041:さっぱり(154〜179)
(詩月めぐ)さっぱりと忘れたはずのあのひとのかけらが時々ちくんと刺さる
(藤野唯)まだ舌に残るあなたをさっぱりと忘れるためのオレンジソーダ
(稲生あきら)泳いでもさっぱり前に進めない そんな夢だけ見てる気がする
060:直(127〜151)
(藤野唯)悪いもの出して素直になろうって友達と行く温泉旅行
ひぐらしひなつ)書き直すばかりでいずれ届くとも思えぬ文のような毎日
084:総(101〜126)
(螢子) 雨が総て流してくれるというのならこの朝焼けに何を祈ろう
(雑食)図書室の古びた辞書できみの名の総画数を確かめている
085:フルーツ(101〜125)
(南雲流水) 受け入れる哀しみやっと飲み込めばグレープフルーツジュースの渋味
(螢子) 星好きのあなたと食べた思い出がきらりとひかるスターフルーツ
(揚巻)おさまらぬものもおさまるべき皿へフルーツはみずみずしい誤解
086:貴(103〜128)
(伊倉ほたる)食後にはとろりと甘い貴腐ワインもたれ合いたい関係だから
(ひじり純子) 「貴金属高価買受いたします」チラシの裏にメモ取る電話
(黒崎聡美)早口の女がすすめる貴重さがうたい文句のラジオ通販
(藤田美香) 安売りのボンボンチョコと缶コーヒー貴婦人みたいなため息をつく
088:湧(102〜126)
(新藤ゆゆ)いじわるなフレーズばかり湧いてきてエゴイスティックに終える週末
(理阿弥) 啓蟄の庭にとくとく湧くひかり指を浸せばゆび微温(ぬる)みたり
(飯田和馬)それは豹。湧き上がるもの。春、僕を八つ裂きにしに駆けてくる影
今泉洋子) 木洩れ日の濃淡君とわけ合ひて湧き出る水のかがやきを汲む
(珠弾)旅立ちの朝もいつもと変わらない駅のホームで湧き水を買う
(藤田美香)湧き水にすこし混じったあたらしい自分とやらを飲み干してみる
090:そもそも(103〜127)
(穂ノ木芽央)そもそものはぢまりなんぞたどるのは時間の無駄と路傍の地蔵
(雑食) そもそもという意味のない前置きが恋の終わりの始まりでした