題詠100首選歌集(その66&67)

  締切まであと1日ともなれば、さすがに投稿のペースが速まって来た。この分だと、「その67」も今日中にまとまるのかも知れない。(15:18記)



     選歌集・その66


019:層(208〜232)
(夏嶋真子)臨終に間に合わなくて「さよなら」が成層圏を漂っている
(粉粧楼)恋さえも突き刺すだけの異物ならせめて真珠の層に埋めたい
(樹)カナリヤを逃がした窓を見上げれば高層ビルのてっぺんに朝
(anemone)その話前も聞いたし ひたすらにミルクレープの層をかぞえる
020:幻(205〜229)
ひぐらしひなつ) 幻想曲弾き終えてのちゆるやかに波打ちながらあなたが戻る
(豆野ふく) 旅先の赤提灯は幻想の灯り 今夜は夢まで飲もう
(鮎美)我が父の幻魚の干物食ぶるその一部始終を見つめてゐたり
(樹) 砂場には海の幻燈 もう二度と溶けない城がしずかに青い
033:奇跡(177〜201)
(粉粧楼)奇跡すらいつか事実に移りゆき寝息静かに傍らの君
(みち。) 神様になったつもりのぼくたちが予定どおりに起こした奇跡
(はせがわゆづ) てのひらにたしかな奇跡をあたためてポケットでつなぐ夕暮れの帰路
(鮎美)偶然とまぐれと奇跡の境界の薄れし朝に熱き茶を飲む
054:丼(129〜156)
(揚巻) ひっそりと夜は息づく丼のふち寂しいひかりばかりをあつめ
(藤田美香)ここに居る私じゃないとだめなことたとえば丼の点であること
(奈良絵里子)一度だけ牛丼屋さんに連れてってくれた上司は兵庫へ行った
(稲生あきら) 牛丼屋の明かりに何故かほっとして白い息吐く月のない夜
(鮎美) 年をとるばかりの家族食卓に並ぶる揃ひの丼五つ
055:虚(127〜155)
(北大路京介) けっきょくはみんな死んじゃう虚しさを忘れるほどの君の存在
(村上 喬)虚ろなる瞳に映りし秋空は澄みわたりおり サイダーを飲む
(奈良絵里子)「虚言症」イントロ聴けば泣きそうでイアフォンぎゅっと耳に突っ込む
(睡蓮。) テレビ消し君が虚像と思い知る虫の音響く夏の終わりに
(きたぱらあさみ)ひらべったい虚構のひとを愛すればブラウン管のむこうにも空
(鮎美)謙虚さと無責任との違ひから教ふる部屋に西陽差しこむ
056:摘(126〜154)
(黒崎聡美)枯れた花を摘まんで捨てるゆびさきはべたついていた 残暑はつづく
(睡蓮。) たおやかな花摘むような君の手に優しくされたい雨の夜には
(しづく)外来のレセプトを書く午後3時摘要欄にいのちがにじむ
ひぐらしひなつ) カーラジオ遠く流れる春の野に誰のためでもなく若菜摘む
(鮎美) 公園に花摘む子あれば公園の花は減りつつ日が暮れてゆく
057:ライバル(126〜154)
(壬生キヨム)悪いこと全部自分のせいにしてまでライバルに憧れている
ひぐらしひなつ) 封切れば細き文字にて知らされるかつてライバルだった人の死
(鮎美)だれからもライバルとされぬまま過ぎしあの夏の我をいとほしむべし
089:成(103〜127)
(奈良絵里子)変化した部分をあなたは成長と呼んで大事にしているみたい
今泉洋子)いつしらに乳離れして成人す母は子を運ぶ舟やも知れず
(詩月めぐ)1ピース足りないパズルいつまでも完成できず終われない恋
091:債(102〜126)
(理阿弥) 雲ひとつなくて淋しい土曜日に債務のような読書はじめる
(黒崎聡美)柿の実の下の新聞湿りつつ黒く小さな国債の文字
(新藤ゆゆ)ぎこちない夜と夜とのすき間からとけだしそうな不良債権
(睡蓮。)欧州の債務の話いつのまにボジョレヌーボー価格の話
092:念(101〜125)
(伊倉ほたる) 丹念に指を滑らす一日の終わりに嘘は塗りこめておく
(南雲流水) 記念日も覚えられない性格で別れた人の歳を数える
(珠弾)その年の有馬記念が終わるまで私は死なないような気がする


予想通り選歌集をもう一つまとめる材料ができたので、その67を追加する。(23:05記)

              選歌集・その67

043:寿(151〜175)
(小林ちい)一人では不老長寿も意味がない明日あいつとスタバへ行こう
(小倉るい)田の事をもう止めたいと言い出した傘寿の義母の曲がった親指
058:帆(127〜153)
(小林ちい) 家族のことは家族で解決するもので、姉の古びた一澤帆布
(村上 喬)帆を上げて漕ぎ出したる会議室 白河夜舟の遙かな旅路
ひぐらしひなつ) 海を知らぬまま朽ちてゆく帆船の模型傾く古き書斎に
059:騒(126〜154)
今泉洋子) 徳利のセーターを脱ぐたまゆらにほのと聴こゆる冬の潮騒
(黒崎聡美) 騒がしく降る雨よ来い約束をすべて忘れてしまえるように
ウクレレ) スカートの後ろスリット切れ込みに5インチばかり胸騒ぎする
(しづく) 新宿の駅構内ですれちがうひとに故郷の潮騒を聞く
(きたぱらあさみ) 喧騒のなかであなたの声だけが音階として響く放課後
(さくらこ) 喧騒に委ねてしまうさよならを君は気付いてない交差点
061:有無(128〜153)
(粉粧楼)いつまでもジャムの煮えない午後のなか運命の有無さえも幻
(月原真幸) 死ねばいいなどと言われた経験の有無を問われて嘘つきになる
(鮎美)本年も「配偶者の有無」慎重に「無」にマルをして提出したり
062:墓(126〜151)
(生田亜々子) 虫取りを繰り返しては嬉々として墓を作ったあの頃の夏
065:羽(126〜151)
ひぐらしひなつ)羽ばたきの呼ぶさざなみがひかりつつまた翳りつつ秋をふるわす
(小倉るい) 夢は皆金網の中に押し込んでクジャクの羽の目玉が光る
068:コットン(127〜151)
(黒崎聡美)快晴に<100%コットン>と表示のシャツの正しい白さ
ウクレレ)コットンの手触りのごと優しさも嘘も同時に素直になれる
(きたぱらあさみ) コットンでペディキュアをふき取っていく ゆっくり恋が終わってしまう
087:閉(103〜128)
(黒崎聡美)閉じられたロールカーテンを越えてくる冬の光は雪のあかるさ
今泉洋子)一日のあらすぢの良き事のみを膨らませつつけふを閉ぢゆく
ひぐらしひなつ)あなたかと目覚めてみれどとめどなく花舞い込んで扉を閉ざす
093:迫(102〜127)
(小林ちい)早足で高ニの終りが迫り来る言葉にならない不安を連れて
(雑食) 明日もまた届けるだろう「好きです」という書き出しの脅迫状を
(空音)夕暮れの冬の匂いに急かされて足早に行く年の瀬迫る
ひぐらしひなつ)迫害の果ての死いくつ展示して冷えたり切支丹記念館
095:遠慮(101〜126)
(小林ちい) 遠慮して引っ込めた手を力尽くでひっぱってくれるような友達
(星桔梗)自己愛に遠慮という名の仮面(つら)被せ距離を置いてるアラフォーの君
(五十嵐きよみ)無遠慮な目つきを向けてくる人に気づかぬふりで前だけを見る
(新藤ゆゆ)あまりにも遠慮がなくてあまりにも夜がさむくて疼いてしまう
(モヨ子) 遠慮がちな言葉を交わす雨のあと終電もない夜の坂道