題詠100首選歌集(その68&69)

 泣いても笑っても最終日。今日はおそらく後2つくらいの選歌集を作ることになるのだろうと思う。また、その程度のラストスパートは期待したいところだ。(17:40記)


選歌集・その68


044:護(151〜175)
(藤野唯)だめなひとばかりを好きになるのだと気付く誰にも護られぬ午後
(粉粧楼)君の手で孵化した希望見失い護符握り締め沈みゆく夜
(きたぱらあさみ)庇護された子猫のように桃色の毛布でくるまれて眠りたい
046:奏(152〜176)
(片秀)もう少し子供でいたい魂が不協和音を奏でているよ
066:豚(127〜151)
(小林ちい)母さんが豚汁を煮る おかわりのために一番大きな鍋で
(鮎美)豚の鳴く農業高校斜向かひ自転車店主の祖父の一生
067:励(126〜150)
ウクレレ)励まして元気になった笑顔見て今度はぼくが励まされてる
(鮎美)君なりの励ましと受け止めて食ふ学食のぬるきわかめうどんを
069:箸(127〜151)
ウクレレ)菜箸は不揃いでいいそう気づきぼくらの愛は自由になった
(鮎美)湧きいづる白きわたあめ割箸に絡めとられて恋に落ちたり
(はせがわゆづ)菜箸で混ぜられていくフライパンのたまごはやがてやさしくなった
070:介(126〜150)
(鮎美) 介助犬伏したるままで目の耳の動かずに尾のときをり動く
071:謡(127〜152)
(小林ちい) 同じ過去を、例えば同じ童謡を知っているというだけの幸せ
(高良すな)風ぬけるキビの穂の間に古謡きく遠い昔の祈りをのせて
ひぐらしひなつ) 歌謡曲流れる店を逃れきて冬の街路を並んで歩く
(さくらこ)眠らないあなたが歌う童謡の続きが欲しい暁の空
072:汚(127〜154)
(奈良絵里子)うわばきの汚れることが嫌だった 小学校の避難訓練
(藤野唯)しなくてもいいことばかりおもたくて油汚れのようなこの恋
073:自然(126〜150)
(詩月めぐ) 最後まで素直になれず不自然な笑顔で君に告げるさよなら
ひぐらしひなつ)不適切かつ不自然な関係を結びに午後のバスに乗り込む
(藤田美香)ストロベリーパフェを食べてる子をながめ私は自然にママになる午後
(冥亭)自然薯のこっくり煮ゆる夜長にてしんしんと天体は回転す
(鮎美)ふるさとの自然薯そばの包装を都の分別に従ひて捨つ
094:裂(101〜127)
(黒崎聡美) 荷造りのビニールテープを細く裂きまた細く裂き影は傾く
(雑食) 便箋を裂くほど強い筆圧のままで最後の手紙は届く
ひぐらしひなつ)雲裂ける真冬のきわみ死に近きひとの手紙を繰り返し読む



予定通り、もうひとつ選歌集ができた。まだ作品が増えるだろうが、どうせ今日中に選歌を終えるのは無理だろうから、残りは明日に譲ることにしたい。(22:35記)

          選歌集・その69


064:おやつ(131〜155)
(藤野唯)気付きたくなかったことを溶かすよう甘すぎるチョコをおやつに選ぶ
(小林ちい)いつかこの時間を懐かしむだろう教室で食うおやつはコロン
(きたぱらあさみ) ひとりです おやつを我慢しなくてもいいし昼まで寝ていてもいい
(みち。) いつだって用意されてたあの頃のおやつのような言葉がほしい
074:刃(128〜154)
ウクレレ)まな板の朝の光を切り刻む出刃包丁はやさしい楽器
(奈良絵里子)朝焼けの光びりびり刃のように刺すような日は子どもでいたい
076:ツリー(127〜154)
ひぐらしひなつ)永遠の雪つもらせてクリスマスツリーが春のくらがりに立つ
(鮎美)雪吊りのごとき骨組み晒しつつ雪なき街の電飾ツリー
(砺波 湊)伸びかけのスカイツリーを見上げてた頃の手帳を読み返してる
077:狂(127〜151)
ひぐらしひなつ)何度目の冬か訃報の重なりて鳩時計の鳩しずかに狂う
(しづく)バスタブのふちさえとても狂おしく君を欲しがる理不尽な恋
080:結婚(126〜150)
(藤田美香)結 婚の二文字にやたら絡まれてどんどん過ぎる平日の午後
(萱野芙蓉) すこやかな家族のかたち残しつつ褪せゆく母の結婚写真
096:取(103〜133)
(壬生キヨム) 取りたてて何でもない日恋人と昔の恋の話をしている
(モヨ子)失うと実感すれば取替えのきかぬ君だと思う暗闇
(新藤ゆゆ) 自販機の取り出し口をらんぼうにまさぐるような恋をしている
097:毎(102〜131)
(五十嵐きよみ) 毎試合一喜一憂する人の話につきあい重ねるグラス
(南雲流水)灯りつけ夜が来る毎待っているもう使われぬ電話ボックス
ひぐらしひなつ) 代わり映えせぬ毎日を過ごすひとに熱き紅茶をそそぐ霜月
098:味(103〜131)
(香澄知穂) 体温を分け合って眠る寒い日のエッグノッグは幸せ風味
(五十嵐きよみ)いつまでも薄荷の味が消えなくて言いたいことが口に出せない
(雑食) 初恋は二人並んだ川べりで真似して吹いた草笛の味
ひぐらしひなつ)たとえば今日の意味を問われて手を止めたまま書架の間の静謐にいる
(伊倉ほたる) 銀紙をうっかり噛んだ後味の悪さのように叱ってしまう
(音波) 後味の悪い別れを告げたあとコンビに前で飲む缶コーラ
099:惑(104〜129)
(黒崎聡美)戸惑ってばかりの夏を今もまだ引きずりつつもマフラーを巻く
100:完(103〜129)
(南雲流水)片われのカップを仕舞う完璧に滅んでしまう危惧種のように
(峰月 京)完全にあなたのものになっていることあなたには隠してあげる